愛について訪ねられたとき、本のなかの男は
「足の爪、親指の爪に触っていた指が協力するように、乱れるように、
足の甲、足首、毛を剃ったすねと順順にのぼって、
膝の皿を岩を越えるようにのぼり、
やわらかな腿にふれ、
それから今たどってきてところをさがって、
今度は足裏、土踏まずのカーブ、踵の丸み、ふくらはぎの弾力をたどり、
膝うらにたまっている汗で指を休め、
かぐわしい草むらがはじまるところまで近づき、
またおりて、のぼって……と繰り返すことだ」
と答えている。
その声は、愛撫と同じように機械的で、
情熱というものは少しもない--というのは、作者の意見である。
だから、女はそこには登場してこない。
また、比喩も登場してこない、と書いたあと、その本のことばは突然、
男の主張も、男の姿も描写するのをやめて、
視線をテーブルの上へ動いていく。そして
何のものかわからないが小さな領収書が斜めに置かれているのを見つける。
そこからどんなふうに物語が展開するのかわからないが、
私は本のページをめくるかわりに、
その小さな紙片を奪うと、それを裏返し、今読んだことばを書き直して
愛についての詩にできないかと考えはじめる。
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