三つ目の信号を、という文字の上に傍線を引き、交差点を三回渡ったときと書き直し、さらに横断歩道を三回渡ったと書き直そうとしたとき、
タンクローリーがクラクションを鳴らした。
交差点の東西南北が入れ代わりビルが脱皮する蛇のようになまめく。
裸のアメリカスズカケの梢がコンビニエンスストアの自動ドアのなかで逆立ちする。
三つ目の信号を、という文字の上に傍線を引き、交差点を三回渡ったときと書き直し、さらに横断歩道を三回渡ったと書き直そうとしたとき、
灰色のアスファルトの上にひかれた白い線の上に光が落ちてきて、
何のカギだろうか、複雑な輪郭をもった小さな金属を反射させた。その反射に誘われ、
角の花屋の黄色い花の色がすぐそばまでやってくる。
ことばは、その瞬間のカケラを書きたいと思う。
けれど、だれの目がそれを見たと書けばいいのだろう。そのあとにつづく惨劇を、だれに押しつければ、いちばん美しい空白ができるのだろう。歩いている人の足がとまり、まるい円を描くために集まってくる、その空白が。
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