失くした本のなかで--小倉金栄堂の迷子 | 詩はどこにあるか

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失くした本のなかで--小倉金栄堂の迷子

失くした本のなかでそのひとに会った。
広いガラス窓のテーブルの、あの椅子に座っていた。
雨が降ると夜の街がアスファルトの上ににじむ。
車がとぎれた瞬間にあらわれる逆さまの街が、

失くした本のなかでそのひとと舗道を歩くと
この街から離れていくような気がする。けれど、
そのひとが見せてくれたモノクロの写真には
ガラスにこびりついている雨粒を車のライトが照らしている。

写真の雨を見ながら想像した。下着を脱ぐときの手と足の動きを、
雨を見るふりをして、そのひとのなかに何を見つけ出そうとしたのか。
そのひとは私の探していたものを知ろうとしただろうか。

失くした本のなかでそのひとの声はすっかり変わっていた。
節度を超えた冷淡さな響き。
あるいはまだ書かれていない本のなかでのことなのか。