話のいちばん華やかなところで彼は
話のいちばん華やかなところで彼は
私ではなく別な男の名前を出した。
一瞬、私は顔が硬くなるのを感じた。
窓を背にして座っているので私の顔は暗くなり、
反作用のように目が光ったかもしれない。
見られただろうか。
視線の縁だけ動かして彼を見ると
目をそらした。見てはいけないものを見たように、
見られてしまったのだ。
わかってしまうと、私は大胆になった。
平気になった。
逃げる視線を追った。
かれは、もう二度と視線がぶつかるようなことはしない。
名前を出した男の笑い種にしようと舌を動かすが、
声がうわずっている。
状況がいりくんだことろで、同じことばを二度言った。
唇の端に唾の泡がたまりはじめている。
テーブルの周りではむやみに手を動かす人がいた。
コップを上げたり、下げたりしている。
話のいちばん華やかなところだ、
声を出さずに、私に向かって口を動かしている。
*
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