西脇順三郎の一行(88) | 詩はどこにあるか

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西脇順三郎の一行(88)

「壌歌 Ⅱ」

土手の上をのら猫がのそのそ                   ( 100ページ)

 この1行は、前の1行を引用しないとおもしろさがつたわらない。直前の行は「ドラクロア!」である。その「ドラクロア」という音から「土手」が導き出されている。このあと詩には「トラ」が出てくるが、もちろんこれも「ドラクロア」から来ている。
 そう考えると、ほんとうは「ドラクロア!」という1行こそ、西脇が書きたかったのかもしれない。「ドラクロア」という音のなかにある何かが西脇を突き動かしている。
 それでも私はこの1行を選ぶ。
 「土手」いがいの部分、「のら猫のそのそ」というのは単純な「音」の繰り返し、「音」の遊びだが、ドラクロアという芸術から、「のら猫」「のそのそ」という俗へ動いていく動きのすばやさがおもしろい。
 なによりも、西脇のことばは、俗のことばが強い。たたいても、こわれない。しっかり「肉体」になっている。