「壌歌」(Ⅱ)
よく野原にみみをすましききいると (94ページ)
この行は「よく」見ると、「みみ」と「きき」と同じ音の繰り返したことばが出てくる。これを「耳」「聞き」と書くと、音ではなく意味の方が強く前に出てくる。ひらがなで書かれているので読むスピードが落ちて、「みみ」「きき」が耳に響きやすくなる。さらに、すま「し」「きき」「い」ると、と「い」の音がつながって、おとが流れているのがわかる。
この行をはさんで、詩は「ただコホロギが鳴いている」と抽象的な会話から、自然の描写へと転換する。その転換のポイントを「聞く」という動詞、そして「音」がつくりだしているところが西脇らしいと、私は感じる。