「天国の夏(ミズーリ人のために)」
純粋に人間的なもの以外には滑稽(コミック)はない (89ページ)
この行は、私は好きではない。好きな行を取り上げ、なぜ好きかということを書くのがこの「感想」の目的なのだが、あえて好きではない行を取り上げることにする。
なぜ好きではないか。
理屈っぽいからである。「以外には……ない」という二重否定のような構造が理屈っぽさを強調する。「いがい」「ない」という脚韻(?)のリズム、「いがい」を鼻濁音で読むとき、「が」と「な」の子音も半分韻を同じくする。それがちょっと音楽としてはおもしろい。
音楽を無視すれば、「純粋」ということばも理屈っぽさを強調しているかもしれない。
滑稽に「コミック」とルビを打っているのも、私には目障りに感じられる。好きではないなあ。
滑稽(こっけい)と淋しいは肯定的に結びつく。コミックとは肯定的に結びつかない。一行の構造が二重否定、否定の強調になっていることも「コミック」という音を選ばせたのかもしれない。「こっけい」と読まれては困る、という意識が西脇のなかで働いたのだろう。