「失われた時 Ⅳ」
くちずさむくちびるがふるえる (56ページ)
音がおもしろい。「くち」ずさむ「くち」びる。「ふ」るえる。くちび「る」、ふ「る」え「る」という音の繰り返し。さらにくち「び」る、「ふ」るえる、のは行・ば行のゆらぎと、くち「ず」さむ、くち「び」る、「が」の濁音(深々とした「有声音」の豊さ)が「く」ちびる、「く」ちずさむ、「ふ」るえるの「無声音」の対比が加わる。
わけもなく、その音を声に出して読みたい欲望が生まれてくる。私は黙読しかしないのだが、どこかで「肉体」が声を出していて、その声が聞こえてくる。ついつい、それを私の肉体の何かが、それを真似しようと誘いかけてくる。