「アン・ヴァロニカ」
恋心に唇をとがらしていた。
唇をとがらすのは不満のときが多いようである。でも、この詩では不満からとがらしているのではないかもしれない。理由はわからない。わからないから、詩なのだろう。わからなさを、「とがらす」ということばが運んできていることがおもしろい。
音もとてもおもしろい。「か(が)行」の音が多いのだが、「とがらしている」ではなく「とがらしていた」と「た」で終わるのもいいなあ。それまでの音の構成が「お」を多く含んでいてやや閉鎖的なのに、最後の「た」の母音は「あ」。ぱっと開放されて、明るくなる。「とがらして」の「が」の濁音も「あ」の響きに豊かさを与える。