秋亜綺羅「一+一は!」という詩。タイトルを読むと、すぐ「2」という答えが思い浮かぶ。でも、そうなのかな? だいたい「1」って、何?
空気が踊ると風を感じるよね
空気が眠れば気配を感じる
気配はもうひとりのぼくだとおもう
一緒に歌って笑ってた、きみのこと
この1連目。話者の「わたし(と呼んでおく)」がいる。「僕」でもいいけれど、3行目に「もうひとりのぼく」ということばが出てくるので、ちょっと区別しやすくするために、「わたし」。
で、書かれていない「わたし」と「ぼく(もうひとりのぼく)」以外に、4行目に「きみ」が出てくる。その「きみ」は、意味としては「ぼく」と同一人物である。「一緒に歌って笑ってた、きみ」が「ぼく(もうひとりのぼく)」。
あれって、思うでしょ。「わたし」はどこ?
「わたし」のなかに「ぼく」と「きみ」がいて、「きみ」と呼んでいるのは、「わたし」、それとも「ぼく」のどっち?
これは厳密に考えると面倒くさい。
ちょっとタイトルに戻る。
「わたし(1)」+「ぼく(もうひとりのぼく)(1)」は? 2じゃなくて、「1」のままだね。どれだけ「ぼく」が増えていこうと、「わたし」は増えない。「ぼく」が「きみ」と名づけられ、
「わたし(1)」+「きみ(1)」になっても、そこにいるのは「わたし」という1.
「ぼく(1)」+「きみ(1)」も1.そこには「わたし」という1がいるだけなのだけれど、なぜか、「ぼく(1)」+「きみ(1)」という算数が表に出てきて、「ほんとう」を隠してしまう。
いや、逆かな?
というより、算数の式は、別な形じゃないかな?
「わたし(1)」÷2=「わたし(1)」+「ぼく(もうひとりのぼく)(1)」
つまり、1÷2=1+1、
あれ、変。
これを正しい算数に戻すには、
1/2+1/2=1
でも、「わたし」をどんなに割ってみても「2分の1のわたし」にはならなからね。そして、どんなに分裂した「もうひとり」を足しての「わたし(1)」以上にはならない。
あ、何を書いてるんだろうね、私は。
じゃあ、このとき何が起きているのか。面倒くさいので、視点を転換する。
何かが起きたとき、そこでは「もの」がかわる。「空気が踊る」と「空気が風」にかわる。新しい何かが生まれる。けれど、それは「空気」にかわりはない。
じゃあ、かわったのは?
「認識」。
認識のなかで、さまざまなものが変わる。感情もね。そしてそれは、分裂しながら、貧弱になるのではなく、豊かになる。
何かが起きるたびに、私たちは、衝撃を受けて「分裂」する。その「分裂」を次々にあつめながら、私たちは「ひとり」のまま、認識と感情を豊かにする。
「もうひとりのぼく」の「もうひとり」を区別するのは、この「豊かさ」につながる何かなのだ。
だから、と、私は飛躍する。
1(わたし)+1(もうひとりのぼく)=無限大。
なぜなら、1(もうひとりのぼく)とは1(きみ)を含むのだから。
1(わたし)+1(もうひとりのぼく)=1(わたし)+1(もうひとりのぼく)+1(きみ)
なのだから。
で、このときに、というか秋亜綺羅のキーワードというのが「もうひとりのぼく」の「もうひとり」、さらに言い換えると「もう」なのである。「もう」は追加。追加を誘い出すことばだね。追加されるのは「新しい認識」「新しい感覚」「新しい感情」。
と言う具合にことばを進めてわかることは。
秋亜綺羅の詩はあらゆるところに「仕掛け」があるのだけれど、その「仕掛け」というのは「新しい何か」を追加するためのもの。そこで始まるのは、ただ「新しい何か」、「1」を深める何か。
で、その「新しい何か」は必ずしも「整合性」を求められてはいない。
「わたし」が感じることと、「ぼく」が感じること、「もうひとりのぼく」が感じること、「きみ」が感じることは「矛盾」していたって、ぜんぜんかまわない。
この詩でも、ほら、
涙がとまらなければ
金魚と友だちになろうよ
金魚は悲しくても
涙を流すことができない
ガラスの部屋でうずくまるきみは
壊れたこころを癒し終わって
ガラスを壊すときが来るだろう
だいじょうぶ、こわいけれど
ぼくはいつも一緒だから
泣いている「きみ」、怖がっている「きみ」を、「ぼく」が励ましている。おなじ「わたし」であるはずの「ぼく」と「きみ」は違う感情を生きている。
だからこそ、詩はつづく。
ひらめきと、ときめきさえあれば
生きていけるさ
だけどあるときは、ぜんぶ裸になって
あるときは派手なコスプレをして
みんなの前に現れる
そんな勇気がいるかもしれないね
これからぼくたちが向かうだろう
水平線だって波立っている
この場所と時間だけがいまのぼくたち
ふたりで写真を撮ろうか
「ぼくたち」は「ふたり」実感し、「ふたり」を受け入れるとき、いままでの「わたし」を超えて、新しい人間になる。
1(ぼく)+1(きみ)=新しいわたし=無限大
秋の詩はいつでも、信じられない明るさに満ちている。
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