ロドリゴ・ガルシア監督「アルバート氏の人生」(★★) | 詩はどこにあるか

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監督 ロドリゴ・ガルシア 出演 グレン・クロース、ミア・ワシコウスカ、アーロン・ジョンソン

 女性なのに、生きるために男装をしてウエイターの仕事をしつづけたアルバートの人生。舞台でも演じたグレン・クロースが、どうしても映画で主演したかったという。ふーん。グレン・クロースがそんなに惚れ込んでいるのなら見てみるか。
 あ、なるほど、舞台だね。映画には不向きとは言わないけれど、舞台の方がおもしろいだろうと思う。
 生身の肉体が目の前で動く。カメラの仲介がないだけに、肉体の呼吸がつたわってくる--ということ以上に。舞台の方が「うそ」を前提としている。これからはじまるのは「芝居」です。現実ではありません。そう断っておいて、そのなかで女性が男性を演じる。芝居だと、アルバートが「女性」とわかっていても、不自然ではない。もともと、芝居は観客が「想像力」を駆使して、「うそ」をほんとうと思い込むものだからね。俳優とは観客の「共同作業」だからね。
 ところが映画は「うそ」だけれど、「うそ」を前提としていない。つまり、観客の「想像力」を頼りにしていない。観客の想像力を上回る映像で、観客の想像力を裏切るのが映画である。この映画には、その要素、観客の想像力を裏切ることで、生き生きと輝くシーンがとても少ない。
 あるとすれば、ひとつだけ。グレン・クロースが同じように「男性」のふりをして生きている女性と、ある日、海岸へ行く。女性のドレスを着て。そのとき、グレン・クロースが、浜辺を走りながら「こんなよろこびがあったのだ」と輝くような顔をする。そのアップ。あ、これは「芝居(舞台)」ではむずかしい。単に顔の演技(全身の演技)の問題ではない。光や潮風といった風景の問題もある。自然のなかかでしか存在しない肉体の呼吸というものがある。この瞬間だけ、グレン・クロースは別人だった。






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