
監督 セス・マクファーレン 出演 マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス、セス・マクファーレン
うまいなあ、マーク・ウォールバーグはとてもうまい。
昔、「ビッグ」を見て、トム・ハンクスはなんとうまいのだろうと大感激したが、それを上回る興奮。
マーク・ウォールバーグの目がいい。子供のまま。子供時代を演じた子役の目よりも中年のマーク・ウォールバーグの目の方が子供っぽい。純真。
この目をテディ・ベアのテッドにむけるだけではなく、ミラ・ニクスといるときも同じ目をする。これはすごいなあ。
映画は2時間くらいのものだから、そういう目を2時間持続しろというのなら、うまい役者ならできるかもしれない。けれど、映画は2時間といっても撮影は2時間じゃないからねえ。とぎれとぎれに撮影するし、撮影の順序だってストーリーとは関係がない。いやあ、どうやって「間」の時間を過ごしたんだろう。心配になるくらい、うまい。
いつまでたっても縫いぐるみと「友だち」というのは、まあ、ヘンタイだね。正常じゃないね。その正常じゃない人間を正常にしてしまうのが、マーク・ウォールバーグの目。目の演技。自分の信じているものを、ただまっすぐに見つめる。ほかのひとがマーク・ウォールバーグをどう見ているかよりも、自分が何を見たいか、ということに夢中になっている。その純真な感じがいいねえ。まあ、自分に閉じこもっている、ジコチューと言えば言えるのだけれど。
で、そういう純真だけでは実はおもしろくない。人間はいつでも純真なだけじゃないからね。
その純真じゃない部分、不純、いいかげんなところ--それをなんとテディベアが引き受けてしまう。リアルに全部引き受けてしまう。マリフアナに夢中だし、デリヘル嬢を家に呼んで羽目を外し、スーパーで働きはじめても上司に無礼な口をきき、仕事中にレジの恋人とセックスし、やりたい放題。生きているテディベアとして一時期セレブだったので人脈(クマ脈?)もあり、パーティを開けばあこがれのスターもやってくる。そこでもコカインをやりながら羽目を外す。働く苦労も知らず、好き放題に遊び呆けている。
あれ?
あ、そうだよねえ。「純真」と「不純(?)」、子供の世界と音なの世界がが逆転している。
人間は中年になれば純真さを失う。縫いぐるみ(子供)はいつまでたっても純真、というのが普通の常識。それが、この映画では逆転している。マーク・ウォールバーグはいつまでたっても自立できない。働いているけれど、そして恋人もいるけれど、さらには縫いぐるみのテッドにも手をやいているけれど、どこかでテッドに頼っている。テッドがいるので、うだつのあがらない生活もやっていけている。出世街道を突っ走るでもなく、ホームレスになるでもなく、まあ、それなりに生活している。上司に叱られながら。
その鬱屈を、テッドがかわりに解放している、とも受け取れるね。
でも、こんなことは考えるとつまらない。ただ、マーク・ウォールバーグの純真な演技に夢中になればいい。(ついでに、テディベアの下品な演技も楽しめばいい。)
いろいろいいシーンがあるけれど、私が好きなのは、テッドの恋人の名前を当てるシーン。いや、当たらないんだけれど、マシンガンのように名前を連発するから当たったら「ピンポーン」と言え、と言って 100人くらい(もっと多い?)の名前をよどみなく言い放つシーン。いやあ、女の名前を日本語でもいいから 100人よどみなく言える? 重複せずにだよ? できないねえ。それを演技とは言え、真剣にやってしまう。そして、その真剣さがねえ……不思議なことに、あ、こいつらいつもこんなふうなことを繰り返していたんだという「実感」というか「暮らしの存在感」として浮かび上がってくる。「オタク」の遊びのようなものなのだけれど、それが「遊び」ではなく(遊びだからなのかもしれないけれど)、「暮らし」をきちんとととのえている。ささえている。そういうのが見えてくる。感激してしまったなあ。
それから、屋外ステージでミラ・ニクスのために歌を歌うシーン。実にへたくそに歌う。そのへたくそさかげんが、とってもうまい。こんなにへたには歌えまいというくらい、音痴の常識通りに音を外す。音痴というのはひとつの和音(コード)から次の和音に移行するときの、そのつなぎ目の最初の音がうまくとれなくて、音がズレていく。つまり、最初の和音のキーと次の和音のキーが違ってきてしまうために音が暴走するのだけれど、それをまるで素人のど自慢でもめったに聞くことができないくらいに上手に「音痴」を演じる。マーク・ウォールバーグはたしかバンドももっているくらい音楽通のはず。それがこういう歌い方を、それも素人の純真さのまま表現できる。爆笑のシーンなのだけれど、感激するなあ。「音痴」なのにそれでも気にせず自分の気持ちをつたえる、その純真さが、すーっと浮かび上がる。
そして、その歌をミラ・ニクスの上司がばかにするのだけれど、このときミラ・ニクスが抗議する--この瞬間に、ほら、マーク・ウォールバーグがどんなに女心をつかみ取っているかがわかる。「純真」が好きでミラ・ニクスはマーク・ウォールバーグを捨ててしまうことができない。そのせつなさがいいねえ。
まあ、しかしこんなことは気にしないで、つまりマーク・ウォールバーグの純真な演技は無視して、テディベア・テッドの下品さに大笑いすればいい映画なのかもしれないけれど、それが大笑いできるのはマーク・ウォールバーグの純真さが要点をおさえているからということは忘れないでね。(これは、下品さに大笑いしながら、自分の純真さを発見する、ということになるのかもしれないけれど。)
(2013年01月20日、天神東宝3)
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