こんなにも忌まわしい 谷内修三
昔読んだ詩のなかに美しい愛のグラスが満たされる
二人が熱い血潮を注ぐとき銀のグラスが透き通り
二人がことばをかわすとき二人のまなざしが睦み合う
二人の固い約束のつぼみは時間をくぐりぬけ睡蓮のように花開く
「あなたの愛が少なくなったら私は私の愛を注いで
グラスを満たしあなたが飲むのを待ちつづける」
昔読んだ詩のなかのグラスは希望に満たされる 昔読んだ詩のなかでは
あなたの愛が遠くなれば私の愛はさらに強くなる
ああそれは私がかつて夢見て書いた幼い詩 愛を知らない子どもの詩
冷えてしまったグラスには不安、悲しみ、さびしさが我先にあふれ、なだれ
つまらないことばが耐えているこころをチクチクと刺す
こんなにも忌まわしい嫉妬の毒 疑惑の毒で私は生き絶え絶え
あなたはなぐさめのかわりに怒りを注ぐ「私は変わっていない」
今書いている私の詩のなかでは愛のグラスの水面は激しい波に大揺れ
そして涙の水平線は喉元までこみあげているので
零れ散るあなたの気持ちを私はのみこめない
あなたの読んでいる詩のなかで 愛のグラスは壊れて割れてしまいそう
どうかなつかしい手でグラスの形を、そのひびをつつんで守っておくれ
もしもあなたが私の書いている詩を読んだなら
昔読んだ愛の詩をなぞるように