そこにあるのは 谷内修三
初めて読んだ詩には夢の中を舟が流れてくる
夢が水なのか、夜が水なのか。
その舟は母を探している。母は死んでしまって
記憶の中にもいないのに。
夢のなかでは舟と母は文字が似ている。
母が舟を探しているのかもしれない。
どこかへ行くための、あるいはどこかから帰るための。母は死んでしまって、
どこにも行けないしどこにも帰れないのに。
初めて読んだ詩の中で舟は遠くから流れてくる
光を砕きながら群青の影をつくっている。
群青の影を深く深くしずめながら流れている。
追いかけるように飛んできた鳥が
舟を追い越した瞬間、すべてが消えた。
そこにあるのは(振り返ってみても)
舟は母だったのか、母が舟だったのか。母は死んでしまって、
だれに問いかけていいのかわからない。
2011年11月23日