八柳李花ー谷内修三往復詩(9) | 詩はどこにあるか

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くちびるの動きを模写しようと   谷内修三


男が射精するとき思い出すのは腋毛の古くさい倦怠である
シーツに残る汗の不機嫌なにおいが見る前の夢にまでしみ込んできて
内耳の階段を落ちていく掠れた声のかけらを集める
遅れるようにあふれてくるのはおまえのなまぬるい口臭という郷愁

シーツに残る汗の不機嫌なにおいが見る前の夢にまでしみ込んできて
部屋の隅ではコップのなかで水が蛇のように腹を白く輝かせて反転する
遅れるようにあふれてくるのはおまえのなまぬるい口臭という郷愁
くちびるの動きを模写しようと指はさまよい あてどなく

部屋の隅ではコップのなかで水が蛇のように腹を白く輝かせて反転する
いまここにないものを数え直す伏せ字の花よりも
くちびるの動きを模写しようと指はさまよい あてどなく
最後のことばを確かめるように肛門の形をなめてみる舌は

いまここにないものを数え直す伏せ字の花よりも
男が射精するとき思い出すのはふと腋毛の古くさい倦怠である
最後のことばを確かめるように肛門の形をなめてみる舌は
内耳の階段を落ちていく掠れた声のかけらを集める


                          (2011年12月09日)