スティーヴン・スピルバーグ監督「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」(★★★) | 詩はどこにあるか

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監督 スティーヴン・スピルバーグ、出演 ジェイミー・ベル、アンディ・サーキス、ダニエル・クレイグ

 この映画の一番おもしろいシーンは、砂漠が突然大海原にかわるところである。アンディ・サーキス船長がアルコールが切れ、禁断症状のなかで見るあざやかな記憶(おじいさんの体験、父だったかな?)なのだが、砂漠のうねりが、そのまま巨大な波のうねりになり、その向こう側から帆船があらわれる。「未知との遭遇」で巨大宇宙船が山を超えながら宙返りをするシーンみたいに、うわーっと声をもらしてしまう。
 次におもしろいのは、そのアンディ・サーキス船長が宿敵の海賊の末裔ダニエル・クレイグとクレーンで対決するシーン。これは大航海時代に船長と海賊が帆船で闘ったときの再現。クレーンは巨大なマスト。船のいのちであるマストをぶつけ合って相手の船を破壊するように、クレーンをぶつけ合って闘う。そうか、帆船なんていまは滅多にないから、帆船の闘いは再現できないのだ。
 で、こうやって書いてみて思うのだが、あれっ、主役は? 一番おもしろいシーンでタンタンが活躍していないではないか。「ユニコーン号の秘密」なので、タンタンは脇役にまわったということかな? 狂言回しにまわったということかな?
 うーん。
 ちょっと、違うなあ。何か、映画の王道を外していない?

 タンタンの登場するシーンでおもしろいのはふたつある。ひとつは海賊をバイクで追跡するシーン。途中でバイクが壊れ、空中に舞い上がる。洗濯物(?)を干すロープか電線(?)をバイクの破片を利用して滑車のように滑っていく。もうひとつは、海賊の鷹(?)に盗まれた手紙を奪い合うシーン。タンタンが鷹の脚にぶらさがる。
 このふたつは、アニメならではの嘘があってとてもいい。特に鷹のシーン。ロープのシーンは、まあ、実写でもありうる映像だが、鷹の脚にぶらさがるというのは実写では絶対にむり。タンタンがいくら軽くても人間に脚をつかまれたまま鷹は飛べない。アニメになると、人間は「重量」をもたなくなる。その利点を生かしている。
 でも、この重量のないキャラクターというのは、同時に別の問題も持っている。どんな危険が迫っても、その危険が生身の危険という感じがしない。どうせ、紙に描かれたもの、という感じがしてしまう。
 たとえばプロペラ機で逃げるシーン。途中、タンタンが落ちそうになる。頭が(髪が)プロペラにまきこまれそうになる。とっても危ないのに、ぜんぜんはらはらしない。実写の人間の顔ならきっとはらはらするのに……。
 (船長と海賊がクレーンで闘うシーンも、重量感はないのだけれどね。)

 こうやって書いてみてあらためて思うのだが、この映画はアニメの利点と欠点を併せ持っている。欠点を克服しきれていない。
 それでもなんとかおもしろいのは、映像のスピードによる。いろいろなアクションがあるが、どのアクションも実写よりワンテンポ速い。人間の行動では再現不可能なスピードでキャラクターが動く。
 このスピードは、もし、この映画にスローモーションのシーンがあれば、もっと引き立っただろう。たとえば「マトリックス」でキアヌ・リーブスが弾丸をよけるときのイナバウアーのようなシーンが。この映画では「スロー」はフランス人の2人組の刑事が担っているのだが、それは「頭」ではわかっても、視覚ではどうもちぐはぐである。うまく拮抗しない。興奮につながらない。意識して見なかったが、たぶん、刑事のアクションも実写よりは速いのかもしれない。
 3D映画ではスローなシーンはむずかしいのかもしれないが、スローな映像があると、この映画は、もっと生々しくなる。あ、スピルバーグは生々しい感覚は嫌い? そうかもしれないね。

 書きそびれたが、本編前の、タンタンの活躍を描いたシルエットのアニメがとてもよかった。「ピンクパンサー」のアニメのようなものだが、軽快でスマートでうれしくなる。




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