フランク・キャプラ監督「素晴らしき哉、人生!」(★★★★) | 詩はどこにあるか

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監督 フランク・キャプラ 出演 ジェームズ・スチュアート、 ドナ・リード、ライオネル・バリモア、トーマス・ミッチェル、ヘンリー・トラヴァース

 情けは人のためならず――という諺はアメリカにもあるのだろうか。思い出してしまうね。
 この映画のどこが好きか、というと。
 最初の神様の会話。そして、クラレンスの天使。つまり、嘘ってわかるところ。現実ではなく「お話です」というスタイルを守っているところ。この映画がつくられた当時、上様や天使をほんとうに信じていた人がどれくらいいるかわからなけれど、まあ、いないよね。いないとわかっていて、それでもその「お話」に乗る――だまされる。
 なぜだろう。
 誰だって夢を信じたいということだね。真実を通り越して、こうあってほしいと願うこと――その願いが、「お話」を借りることでさらに純粋になる。浄化される。これが「現実」として表現されたら、どうしたって「嘘にきまっている」と思ってしまう。「お話」だと、「嘘だろう、嘘にきまっている」と言えないよね。
 ジェームズ・スチュアートも、なんというのだろう、実直、正直という感じを具現化したような役者だね。美男子じゃない。クラーク・ゲーブルみたいな美男子が演じると、嘘丸出しになる。美男子じゃないから、顔にまどわされず、行動を見てしまう。
 それから、とってもおもしろいのが、もしジェームズ・スチュアートがいなかったら・・・という世界が、絶対的な「悪徳」の世界ではない点。マフィアが街を支配しているとか、みんなが貧困で苦しんでいるとか、ではない。なんとなくすさんだ世界という点。だれでもはまり込んでしまう世界。酔っ払いや売春婦がいる――ちょっと堕落した(?)感じ。
 それが「世界」の現実だとしても、まあ、近づかなければ幸せに生きていくひとはいるよね。(それに、映画製作当時はどうかわからないが、いまは、その堕落した世界がそっくりそのまま現実だから、余計にそう思うのかもしれないけれど。)
 描かれる「幸せ」がつましいのも、いいね。妻がいて、子どもがいて、みんなが「いい人」と尊敬してくれる。大金持ちでもない。金さえあれば何でも手に入るではなく、信頼されれば金さえ手に入る――この、まさに庶民の夢が、きちんと「お話」で語られる。
 これは、いいなあ。



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