J・J・エイブラムスはなかなかずるい監督である。この映画が一番ずるいのは、映画の舞台の年代を1970年代の後半(1980年代のはじめ?)に設定したことである。「ウォークマン」が登場した時代である。このころの映画は、(といっても、私ももう正確には思い出せないのだけれど)、いまのようにCGが全盛ではなかった。映像が「手作り」だった。その雰囲気を巧みに取り入れている。それが非常に懐かしい感じ、懐かしさを誘うのである。
もちろん冒頭近くの列車の脱線や、事故現場を逃げ回る子供たちなど、非現実的すぎて、嘘丸出しのシーンもあるのだが、8ミリカメラで映画を撮るという子供たちを登場させることで、「特撮(と、あえて言っておこう)」という雰囲気を出している。小道具の「花火(火薬)」や模型の爆破話が巧みに組み合わされ、いま、スクリーンで展開されているシーンもそうやって撮ったのだと思わせている。
映画中映画(子供たちの撮っている映画)の「手作り」感じが映画全体を乗っ取っている。「スーパーエイト」はJ・J・エイブラムスが撮っているのだけれど、この映画のなかの子供が「ゾンビ」映画ではなく、この「スーパーエイト」そのものを撮っているという「誤解」を引き起こすような感じで映像がつくられている。
エイリアン映画? パニック映画--何と呼んでもいいのだが、「スーパーエイト」のメインのストーリーを無視して、「映画をつくることは楽しい」「映画を撮るのはこんなにおもしろい」という喜びを前面に押し出している。
「ET+スタンドバイミー」のような映画と言われているけれど、むしろ、「ぼくらの未来へ逆廻転」の方が近い。「映画をつくる喜び」、嘘をつくってみんなを驚かせるという気持ちの方が強くでている。子供たちのつくる映画の中で「監督」が何度も「クオリティーが高くなる」というようなことを言うが、「クオリティー」を手に入れる喜びがあふれている。CG全盛の時代にあって、CGにはない「クオリティー」を追求しようとして、あえてウォークマンの時代へ逆戻りし、「手触り」を重視している。「手作り」を重視している。ゾンビの「化粧」や「血糊」などをていねいに描くことで、「人間」の「手作業」を見せている。途中にさらりと出てくる「模型の色」、グレーだけでも十数種類ある、というような「肉眼」の強調が、とてもおもしろい。
これは、演じる側(映画にでる役者の側)にも同じことがいえるかもしれない。CGをつかわず、フィルムがまわっているあいだの一発勝負の楽しさ。これは、いいなあ。
この映画の子役のうまさにはびっくりするが、特に、エル・ファニングがすばらしい。刑事の妻の役で、夫を心配する演技のリハーサルのときの完璧さ。映画の中で芝居をするという複雑な演技のなかで、このときは、それがそのまま映画としてつかえる完璧な演技をする。しかし、それはあくまで、子供たちのつくった「映画」のなかではなく、J・J・エイブラムスのつくっている映画の中での芝居。(あ、この映画を見ていない人には、きっと何がなんだかわかりにくい文章になっていると思うが……。)それとは別に、子供のつくった「映画」のなかでは、エル・ファニングは迫真の演技ではなく、あくまで子供が映画をつくっているという演技--つまり、あまい演技、学芸会よりは上手だが、学芸会の雰囲気を残した演技をしている。これは他の登場人物も同じである。この「スーパーエイト」と「ゾンビ」の映画での、芝居の切り替え--これが、すばらしい。
現実があって、芝居がある。この映画では「現実」も芝居なのだけれど……。その現実と芝居の違い、「現実」のようにして「映画」をつくること、その「嘘」の喜び。「いま/ここ」にないものを映像の力を借りてつくってしまう喜び。
いいなあ、これ。
映画の最後、クレジット部分で、子供たちのつくった(といっても、J・J・エイブラムスがつくっているのだけれど)映画が上映される。子供っぽくて、偽物っぽくて、とてもいい。最後の最後に、その子供の映画のクレジット(?)にもひとつ仕掛けがあって、それも映画をつくる側のお遊び、喜びにあふれている。
映画にしろ、何にしろ、ものをつくる喜びとは、自分の手で何かを工夫する喜びである。肉体を動かして、いま、ここになっかたものを生み出すという喜びである。
だからね、
「スーパーエイト」に戻ってしまうと、ちょっとつまらない。かなり、つまらない。最後は「ET」そのものになってしまうからねえ。
だからね、(と私はもう一度書いてしまう)
この映画は「エイリアン」の話ではないんです。タイトルが象徴しているように「8ミリカメラ」で映画を撮って、遊ぶストーリーなんです。映画を撮って(つくって)遊ぶ楽しさの延長線上に、この映画ができあがっているのです。子供のとき8ミリカメラで映画をつくって遊んだからこそ、J・J・エイブラムスは映画を撮る仕事をしているんですという「自伝」映画なのだ。「エイリアン」はお飾り。「宇宙船」もお飾り。「家族」のお話もお飾り。「お飾り」を無視して、映画を見てね。懐かしくて、涙が出てくるかも。
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