ダンカン・ジョーンズ監督「月に囚われた男」(★★★) | 詩はどこにあるか

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監督 ダンカン・ジョーンズ 出演 サム・ロックウェル、ケビン・スペイシー

 宇宙ものは、やっぱり、「はったり」が一番。最大の「はったり」は「2001年宇宙の旅」。この映画は、その「2001年」の「はったり」を上手に昇華している。、あ、「はったり」を観客の想像力に働きかける「アイデア」と置き換えると、ほめことばになります、はい。
 舞台は月の裏側。登場人物は、月の資源を採取している労働者(宇宙飛行士?)ひとり。相手は「スマイル・マーク」のコンピューター。そのふたりのあいだで変なことが起きはじめる。……ほら、「2001年」と似ているでしょ?
 「スマイル」コンピューターは「ハル」とは違って、パスワードまで教えてくれる「味方」ってところが、なんともうさんくさい。そして、その声がケピン・スペイシーなのだから、うさんくささは最高潮だね。私は、誰が声をやっているか知らずに見たのだけれど、あ、このソフトボイスのねちっこい嘘っぽさ--ケビン・スペイシーじゃないだろうか、と思って見ていたら、最後のクレジットにケビン・スペイシーの名前。やっぱりね、と、なぜか安心してしまった。変だね。
 映画は……。
 平気でうそを積み重ねていきます。映画なんだからうそでかまわないんだけれど、「2001年」同様、どこに金をかけたのかわからないような「はったり」だらけ。主役の男が、いよいよ地球へ帰れる--と思ったころから、突然、その男そっくりの男が宇宙船(でいいのかな? 基地というべきかな?)にあらわれる。幻覚? 現実? まあ、その謎が、このSFのストーリーをひっぱっていくのだけれど、おいおい、出演者はたったひとり? 出演料、ぜんぜん、金かけていないじゃないか。なんて、ことを私は思ってしまいますねえ。「2001年」も、まあ、猿(?)を含めて何人か登場するけれど、印象に残るのは宇宙飛行士とハルのふたりだからねえ……。
 月での資源掘削とか、その現場へ向かう車--あ、全部「おもちゃ」だよねえ。不思議なことに、宇宙ものには「おもちゃ」のぎごちなさが、「リアル」にかわってしまう。月の地表なんか、でこぼこ。そこで車がスムーズに動くわけがない。だから、「おもちゃ」のがたがたがぴったり。「おもちゃのガタガタ、おもちゃのガタガタ」と坂本九(古い!)の歌でも歌いながら見ているととっても楽しい。「2001年」も50センチほどの模型を台スクリーンに映し出して、それが宇宙船になっちゃったんだから、「青きドナウ」のかわりに、「おもちゃのチャチャチャ」で「ぼくらの未来へ逆回転」のリメイク(パロディー?)をつくるとおもしろいんじゃないかねえ。
 あらゆるものの細部は、太陽の強い光の「白」と闇の「黒」のコントラストのなかに分離され、影のグラデーションなんかは吹っ飛ばしてしまう。これも「2001年」どおり。いいなあ。「スターウォーズ」の特撮がばからしくなる。大好きだなあ。この「はったり」。いや、手作りの「やさしさ」。観客を騙すのに必死に何かをつくっている感じ。CGdんかはつかわずに(つかっているのかな?)、こつこつと積み重ねていく感じ。
 名が起きている? その謎解きも、一気に解決じゃなくて、こつこつ、だからねえ。
 傑作は、「2001年」の「ハル」の「メモリー」のかわりが「クローン」ということかな? 人間が部品。それが基地の地下に、「ハル」の「メモリー」のように、ずらーりと並んでいる。で、それを取り外すと……。まあ、クローンだから取り外すかわりに、その「秘密」を暴くと--というのがこの映画のストーリーなのだけれど、その「秘密」をあばくと、コンピューターじゃなくて、その宇宙基地そのものを経営している「会社」がぶっ壊れてしまう。動かなくなってしまう。
 つまり、資源発掘会社の株が大暴落。

 わあ、株が大暴落したから言うわけじゃないけれど、安上がり。最後は、ことばだけ。「2001年」のように、「万華鏡」の光という映像もない。簡単でいいなあ。

 あ、ちょっといいかげんな感想かなあ。
 でも、観客の想像力を最大限に利用している、おもしろい映画だよ。こういう映画を見ると、映画がますます好きになるね。
 「アバター」なんて、観客の想像力を否定しているからね。大嫌い。

 あ、最後に。
 こういう「はったり」「うさんくさい」映画に、「声」だけで出演しているケビン・スペイシーって、曲者だねえ。それも、この映画が大好きな理由かな。
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