誰も書かなかった西脇順三郎(40) | 詩はどこにあるか

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詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

 『旅人かへらず』のつづき。

五四
女郎花の咲く晩
秋の夜の宿
あんどんの明りに坐わる
虫の声はたかまり
手紙を読む
野辺の淋しき

 この作品は1行目が印象的だ。なぜ「晩」なのだろう。いつも気にかかる。私自身を納得させることばがみつからない。

五五

くもの巣のはる藪をのぞく

 なぜ「藪」か。蜘蛛の巣がはっているから、といえばそれまでだが、「やぶ」という音も重要だろう。ここにも西脇の濁音好みがあらわれているとわたしは思う。

五六

楢の木の青いどんぐりの淋しさ

 「の」の連続。そして、「青いどんぐり」。完成したもの(完熟したもの)よりも、これから完成へ向かうもの。その「淋しさ」は「美しさ」とおなじである。「いのち」の、これから広がっていく力。そこにあるのは、力の充実かもしれない。




定本西脇順三郎全詩集 (1981年)
西脇 順三郎
筑摩書房

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