誰も書かなかった西脇順三郎(25) | 詩はどこにあるか

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詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

 
 『旅人かへらず』のつづき。

一四
暮れるともなく暮れる
心の春

一五
行く道のかすかなる
鶯の音

一六
ひすいの情念
女の世(よ)のかすむ

一七
珊瑚の玉に
秋の日の暮れる

 春から秋への動き。そのなかで響きあう「の」の音。
 「女の世のかすむ」は「女の世がかすむ」「女の世はかすむ」だと、まったくおもしろくない。「おんなのよの」だから口蓋の感覚が気持ちがいい。
 全体の(といっても、この連のかたりまのことだが)、「か行」と「さ行」の交錯も楽しい。

 鶯の音。

 これは、しかし、どう読もうか。私は無意識に「うぐいすのおと」と読んでしまうけれど、「うぐいすの・ね」だろうか。私が「うぐいすのおと」と読んでしまうのは、無意識に「うぐいすの・こえ」の「こえ」の2音節に反応しているのかもしれない。
 こういう「わからない音」があるのも、私にとっては楽しい。ある日突然、あ、あれは「おと」でも「ね」でもなく、「おん」だったと気がつくかもしれない。
 「珊瑚の玉」も私は「さんご・の・ぎょく」と読むけれど、「さんご・の・たま」かもしれない。




西脇順三郎詩集 (1965年) (新潮文庫)
西脇 順三郎
新潮社

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