『旅人かへらず』のつづき。
一四
暮れるともなく暮れる
心の春
一五
行く道のかすかなる
鶯の音
一六
ひすいの情念
女の世(よ)のかすむ
一七
珊瑚の玉に
秋の日の暮れる
春から秋への動き。そのなかで響きあう「の」の音。
「女の世のかすむ」は「女の世がかすむ」「女の世はかすむ」だと、まったくおもしろくない。「おんなのよの」だから口蓋の感覚が気持ちがいい。
全体の(といっても、この連のかたりまのことだが)、「か行」と「さ行」の交錯も楽しい。
鶯の音。
これは、しかし、どう読もうか。私は無意識に「うぐいすのおと」と読んでしまうけれど、「うぐいすの・ね」だろうか。私が「うぐいすのおと」と読んでしまうのは、無意識に「うぐいすの・こえ」の「こえ」の2音節に反応しているのかもしれない。
こういう「わからない音」があるのも、私にとっては楽しい。ある日突然、あ、あれは「おと」でも「ね」でもなく、「おん」だったと気がつくかもしれない。
「珊瑚の玉」も私は「さんご・の・ぎょく」と読むけれど、「さんご・の・たま」かもしれない。
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