『全詩集』に「単行詩集未収録詩篇」がおさめられている。戦前(1939~1942年)の作品。「インクと人造肥料」。
トランプは無意識に鏡をバラマキ
ルージュが午後の装飾を考慮する
笛に似て空がブラウスのやうに落ちてくると
羽をソメてトンボなどが
ハイ・ヒールをふみつぶす
ことばがぶつかりあって乱反射する。ことばとことばの衝突からイメージが自律して動きだすのを待っている感じがする。
まだ、ほんとうに書きたいのは何なのかわからず、ことばを手さぐりしている感じがする。
「馬のピストル」には、おもしろい行がある。
蒼白い雨の角度から
燃え上がる植物たちは
暁の来るのを忘れてゐたが
時間が
沈んでゐる魚族の思想を剥ぎとる
「雨」と「燃える」。水と火。「矛盾」の芽が、ここにある。
5分前 (1982年) 田村 隆一 中央公論社 このアイテムの詳細を見る |