『田村隆一全詩集』を読む(106 ) | 詩はどこにあるか

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 『全詩集』に「単行詩集未収録詩篇」がおさめられている。戦前(1939~1942年)の作品。「インクと人造肥料」。

トランプは無意識に鏡をバラマキ
ルージュが午後の装飾を考慮する
笛に似て空がブラウスのやうに落ちてくると
羽をソメてトンボなどが
ハイ・ヒールをふみつぶす

 ことばがぶつかりあって乱反射する。ことばとことばの衝突からイメージが自律して動きだすのを待っている感じがする。
 まだ、ほんとうに書きたいのは何なのかわからず、ことばを手さぐりしている感じがする。

 「馬のピストル」には、おもしろい行がある。

蒼白い雨の角度から
燃え上がる植物たちは
暁の来るのを忘れてゐたが
時間が
沈んでゐる魚族の思想を剥ぎとる

 「雨」と「燃える」。水と火。「矛盾」の芽が、ここにある。




5分前 (1982年)
田村 隆一
中央公論社

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