石の上に水が落下しつづける。
冬の陽の中での水の音。
独りの鳥の叫びが
虚ろな空の中で
もう一度ぼくらを捜す。
言いたいことは?ころは何か?
どんな肯定が言いたいのか?
高い空からつぶてのように
駐車したバスの上に落ちつつあると。
観光客満載のバス。
何世紀も前に死んだ客たち。
*
どんなことばも「時代」とともにある。その「時代」がわからないと、ことばの悲しみがわからない。私はリッツォスの生きたギリシャのことを知らない。「時代」を知らない。だから、この作品のことばのほんとうのところはわからない。
ほんとうのところはわからないけれど、最終行の「死んだ客」ということばの、「死んだ」という修飾語にリッツォスの悲しみと怒りを感じる。「死んだ」はほんとうは「殺された」であろう。「肉体」は生きている。「精神」も生きてはいるのだが、それはかろうじて悲しみを、絶望を生きているにすぎない。だから「死んだ」と修飾せずにはいられない。悲しみ、怒り以外にもし生きているものがあるとすれば、そういう状態を「死んだ」と修飾する理性である。
もっとほかの生き方があるのはわかっている。わかっているけれど、それを実現できない。そのとき、人間を「虚ろ」がつつんでしまう。そういう状況でリッツォスは世界を眺めていることになる。
独りの鳥の叫びが
虚ろな空の中で
もう一度ぼくらを捜す。
リッツォスは、その一羽の鳥である。