監督 メル・ギブソン 出演 ルディ・ヤングブラッド、ダリア・ヘルナンデス
奇妙な映画である。そして映画でしかない映画である。
日食を恐れる一族にとらえられ、そこから脱出する。ただし、猟(人間狩り)の標的となって、森林を走って逃げる。それだけの映画である。(もちろん、その前段階として、捕虜になるシーンがあるが、「脱出」のスタートまではちょっと退屈である。)
主人公は素手である。武器はもたない。唯一の武器があるとすれば、それは主人公が逃げ回る森林が彼の猟場であったということ。つまり、土地鑑があるということ。最後の方に、この土地鑑(自分の猟場)を生かしたエピソード(シーン)があるが、それは付け足しのたぐいであり、もしかすると「うるさい」部分かもしれない。土地に根差したものだけが勝利する--というような「哲学」はこの映画には似合わないのである。(かえるの毒を利用して吹き矢で戦うなどというエピソードも、主人公の造形としては有効ではあるけれど、やはりうるさい。)
見どころは、ひたすら森林を走る疾走感。こんなに走り回れるわけはないのだが、そんなくだらない批判を吹っ飛ばして、ただただ走る。走る男、逃げ回る男をカメラは逃げる男といっしょのスピードで追いかける。逃げる男より速くも遅くもない。この一体感がすばらしい。そのスピードのなかで、男の裸が森林になり、森林が男の鎧になる。森林を着て男が走るのである。走る、走る、走る。走るにつれて、男は森林そのものになる。汗を吹き飛ばし、同時に、男は恐怖心を捨て去る。男は森林と完全に一体になる。
何もこわくない。森林はいのちが生まれ、いのちがかえっていく場所である。森林こそが男のすべてであり、男は走ることによって森林そのものになったのだから。
(前半は眠っていても大丈夫。後半は目をらんらんにして、男といっしょになって森林を駆け回ってください。ジャガーになってください。)