谷本州子『綾取り』 | 詩はどこにあるか

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 谷本州子『綾取り』(土曜美術社)。
 耳のいい詩人だ。「握飯」は農家の夕暮れ時を描いている。幼かった詩人と二人の妹。農作業から帰ってくる母を待ちかねて「おなかが空いた」と訴える。母親が急いで「握飯」をつくってくれる。

 じき夕飯やのに
 躾がなっとらん
祖母のいつもの小言を
蜩が茶化した
 ええやないかな かなかなかな
 ほっとかんかな かなかなかな

 この瞬間、ここには書かれていない情景が見える。「蜩」のことばは本当は父か母がもらした声なのだろう。「ええやないかな、ほら蜩も言ってるぞ、ええやないかな、かなかなかな」という具合に。そこに働くことに懸命なだけの父、母とは少し違った父、母がいる。わが子を愛する父と母がいる。