中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(52) | 詩はどこにあるか

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 「人知れぬもの」。その人が「わかる」、その手がかりは何か。

私の一番ベールを被せた書き物、

 ただの「書き物(ことば)」ではない。「ベールを被せた」という修飾がある。秘密、暗示。しかも、「一番」ということばも重ねられている。
 この「一番」は、直前の行にも書かれている。同じことばが二度書かれている。しかも、目立つ形で。
 それがとてもおもしろい。
 「人知れぬもの」は、「一番」知ってもらいたいことなのだが、この「一番」という音の響きが、なんともいえず軽くていい。「最も」だともったいぶった感じになる。中井の訳の魅力が、ここにある。