中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(9) | 詩はどこにあるか

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(9)

 「デメトリオス王」は、俳優が芝居の衣を脱ぎ捨てるように、王の衣を脱ぎ捨てて逃げたと言われている。誰もが知っていることを、カヴァフィスは、再び詩にしている。それをどう訳すか。

ありきたりの王の振る舞いをみせなかった

 「ありきたり」がおもしろい。ふつうに会話しているときは無意識につかうが、無意識だからだと思うが、書きことばではなかなかつかわない。
 具体的な行動は、この一行のあとに書かれるだが、すでに「ありきたり」に「俗」が含まれていて、とてもおもしろい。「うわさ」は、この「俗」のなかを広がってゆき、王を追い越して「事実」になってしまう。
 中井久夫は、逃げ出した王にではなく、庶民に「チューニング・イン」してことばを書いている。