「現代詩手帖」12月号(4)(思潮社、2022年12月1日発行)
井坂洋子「秋の廊下」。
夢からさめて 九歳
父母の寝室の
ドアの前で少しためらい
小声で母を呼ぶ
九歳ともなれば、なんでもわかるからね。大人の会話の中身は。そして、聞きかじった会話から、耳年増の子どもが想像することは、ほとんど正確である。たぶん、本能が教えてくれるから、間違えようがないのだ。
ということを井坂が書いているかどうかは、問題ではなく、私はそういうことを考えたということ。
ここに書いてあることは、現実か、記憶のなかで「変形」したものかわからないが、私は意識のなかで変形した記憶だろうと思って読んだ。
途中は端折って、最後の連。
ドアの前で少しためらい
透き通っていく 腰のあたりの
背骨のとがり
遠い時間が曲がってきそうなところを 何度も何度も撫でている
いいなあ、この終わり方。人間はいつでも知っていることしか、わかることができない。
うるし山千尋「ライトケージ」。『ライトケージ』にはもっといい詩があったと思う。その感想を書いた記憶があるが……。どの詩をいいと思うか、どの行(ことば)をいいと思うかは、まあ、人それぞれだね。
やわらかい
弦は
空気のような他人の
風景のような
音がまじる
「空気のような他人の」と一行にしてしまったところが、井坂の書いた「遠い時間が曲がってきそうなところ」に通じると思う。
最終行は、
暇が窓枠のかたちをしている
何のことかわからないが、わからないからいい。「わざわざ」書いているのだ。きっと「二十年ぶりに」(書き出しの一行)「暇」になったのだろう。何もすることがない、暇。
暇なとき、人間は何をするか。「わざわざ」何かを探してきて、何かをする。
そういうことを意識しながら、小笠原鳥類「闇汁・きのこ汁・むじな汁」を読む。「闇汁」の句を集め、それに「きのこ汁」「むじな汁」をからめ、いろいろ感想を書いている。それは、あるいは「闇汁」の定義というべきか。で、その「定義」というと。
乾燥した電気ウナギや深海のサメとか、あるいはゴムでできたにわとりとかを、鍋に入れて、それらがドジョウのように動き回るゾンビであることを楽しむ恐怖の遊び。
もちろん、これは「わざわざ」書いている。「わざと」書いている。西脇順三郎が言ったように現代詩とは「わざと」書くのだから、これは「正統な現代詩」なのである。しかし、いつでもそうだが、「正統な」という形容詞がつくものは、ときとして退屈である。「わざわざ」正当化する必要はないだろう。「暇だね」と思ってしまう。どうせなら、そして「きのこ汁」や「むじな汁」を出すくらいなら、「ゴムでできたにわとり」ではなく、コンドームくらい書いてほしかった。
どうも、私はきょうは不機嫌なようだ。見るともなしに、次に感想を書く詩人の名前が見えてしまったからかもしれない。それは、だれ? あしたになれば、わかるでしょ。これは「わざわざ」(わざと)書いていることです。
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