竹内K「通勤」 | 詩はどこにあるか

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通勤  竹内K

ある晴れた秋の日、バスはいつもの込み具合で四丁目バス停を出発した。
太りすぎを気にして駅まで歩こうとしている潤三さんを追い越して、
バスは先を急いだ。
バスの窓から宗和さんは歩道をいそぐ中年の男の後ろ姿を何気なく見ていた。

雨の日だった。
四丁目バス停で少しおくれて、バスは出発した。
二丁目バス停に到着したとき、八人の乗客が待っていた。
潤三さんは足下が濡れるのを気にしながら、並んでいる乗客を横目に駅に急いだ。

また雨の朝だった。
潤三さんの健康志向に水を差す強い雨だった。
宗和さんをのせたバスが、背後から近づいていた。
今日は健康でなくてもいい、あきらめて十一人が並ぶ二丁目バス停の列に続いた。
雨にぬれた乗客が次々に入って車内はいっぱいになった。
中に入れない潤三さんは、目の前で乗り込んだ女子高生の後ろ姿を見送った。
こんな雨が強い日は、会社に遅れることは罪ではないのだ。
バスはすぐに来た。
車内はほとんど人がいなかったので、座ってスーツについた水滴を拭いた。
駅につくと、先に到着したバスが人を吐き出しているのがみえた。
ぐったりしながら出てきた宗和さんがみえたが、
潤三さんには知らない人だった。

ある晴れた日、
この六か月で三・八キログラムほど減量した潤三さんはもうすぐ春だな、と思った。
革靴を買わなければならないと思いながら口元がゆるんだ。

 とてもおもしろい詩です。
 詩の中に「潤三さん」「宗和さん」というふたりの人物が出てきますが(ほかにも女子高校生も出てきますが)、そのふたりが「知らないひと」(無関係)であるというのが、この詩を楽しいものにしています。知らないひとが隣り合うのが「通勤」ですね。
 また、各連の描写が淡々としているのも「通勤」というテーマにぴったりだと思います。どこにでもある「光景」といえばいえるけれど、そのどこにでもある光景でも、具体的に見ていくと違いが見えてくる。晴れた日と、雨の日では違うし、同じ雨の日でも、また違う。
 三連目は、そうした描写の中に「こんな雨が強い日は、会社に遅れることは罪ではないのだ。」という潤三さんの感想(意見?)がさっと挿入されているのがとてもいい。潤三さんに対する親近感が生まれる。そういう親近感を書いておいて、そのあとで「ぐったりしながら出てきた宗和さんがみえたが、/潤三さんには知らない人だった。」という、親近感とは逆の「事実」が描かれるのもいい。無理をして、前のバスに乗り込まなくてよかった、という不思議な安堵感が伝わってきて、なんとなくうれしくなる。一種の、共感。「先に到着したバスが人を吐き出しているのがみえた。」の「吐き出す」という動詞の使い方も、この詩を魅力的にしています。「人情」とは関係ないものが「世界」には存在する。「非情」のリアリティーが、「知らない人だった」をとても輝かせている。
 この現実の非情な輝きがあるからこそ、最終連の明るい響きが、明るいまま伝わってくる。潤三さんになった気持ちになる。
 「晴れ」「雨」「雨」「晴れ」の変化が起承転結になっているのも、とても効果的です。

 タイトルは、少し考えた方がいいかもしれない。「通勤」は抽象的すぎて、この詩の雰囲気には冷たい感じがする。「潤三さん」のような、固有名詞にしてみると読者の受け止めるときの印象が違ってくる。登場人物に固有の名前をつけて、いろいろな人間の、そのときそのときの具体的な感じをシリーズで描いていくと一冊の死守になると思う。

 

 

 

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