谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(30) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(30)

(足は地を)

足は
地を知っている
眼は
天を仰ぐだけ

星々は
毎夜
空にいて

地に
甘んじて
ヒトは
誤る

地から
天が
見えると

 「地から/天が/見えると」思うのは誤り。「見る」と「知る」と違う。「知る」ためには「足」が大地に触れるように、「肉体の接触」が必要だ。しかし眼はいったい何に直接触れることができるか。そして、ことばは。

 

 

 

 

(ひと足)

情熱は
無い
ただ穏やかな
興味で

贈られた
世界を
見つめる
歓び

未来を
手探りする

明日へ
遅々と
ひと足

 「情熱」と「穏やか」は相いれないものなのだろうか。『女に』のなかで谷川のつかっていた「少しずつ」は「穏やかな情熱」、「確かな情熱」「手探りの情熱」「ひと足ずつの情熱」ではなかったか。

 

 

 

 

 

(二月)

地に
惜しみなく
陽は
降り注ぎ

トレモロは
沈黙の
饒舌

ヒトは
多事
繭は眠る

宇宙に
濾過された
現世の
悲しみ

 「濾過」。谷川は「濾過された」と受け身でつかっている。そして、「濾過され」ると「悲しみ」が残る。そうではなくて、「濾過された/悲しみ」は「悲しみ」とは別のもの、たとえば「沈黙」だろうか。