谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(27) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(27)

(死の色は)

死の色は

まばゆさに
目を瞑る

ざわめきの
静まる
今日

慎ましく
黒は
隠れる
人の無明に

古の
金の輝き
鉄の錆

 「無明」は色だろうか。白と黒のあいだにある灰色かもしれない。この灰色は仮の名前で、ほんとうはまだ名前のない色。さわがしい灰色、静かな灰色。灰色は、いくつあるかもわからない。

 

 

 

 

(無はここには)

無は
ここには
ない

どこにも
無い
宇宙にも
心にも

無は偽る
文字で
詩で
こうして

無いのに
時に
有るに似る

 「偽る」と「似る」は微妙な関係にある。「偽り」のなかには事実に似たものがある。似ているから、ほんものと間違える。Aを以てBと為す。騙すは馬ヘンだが「偽る」も「似る」も人ヘンである。罪深い。

 

 

 

 


(水平線で)

水平線で
陽炎に
揺れている
遠い誰か

そこへと
夢が
泳いで行く

頑なに
沈黙する
椅子と

言葉の
無垢受胎の

 「頑な」と「無垢」。「頑な」には意思があるが、「無垢」には意思がない。だから「頑な」には拒絶感がともなうのに、「無垢」は逆に拒絶感がない。「無垢」がさまよいだすのは「幻」に騙されてか。