谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(26) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(26)

(欲は涸れず)

欲は
涸れず
死に
向かう

善悪
不問
美醜を忘れ

庭の
若木
見守る

守られて
いる

 三連目。若木「を」見守るか、若木「が」見守るか。「美醜を忘れ」のつづきで言えば「若木を見守る」だろう。しかし、私は「若木が見守る」と読んだ。だから四連目は「若木に見」守られていると自然につづいた。

 

 

 

 


(死は私事)

死は
私事
余人を
許さない

悲苦を
慎み
生は静まる

色から
白へ
色から
黒へ

いつか
透き通る
現世

 「死は私事」というが、死は実感できるのだろうか。「死んだ」と私は納得できるだろうか。想像できない。私の知っている人は死を「自覚」して死んで行ったように見えるが、自覚は予測にすぎない。不透明だ。

 

 

 

 

 

(残らなくていい)

残らなくていい
何ひとつ
書いた詩も
自分も

世界は
性懲りもなく
在り続け

蝶は飛ぶ
淡々と
意味もなく
自然に

空白が
空を借りて
余白を満たす

 「淡々」「意味がない」「自然」。三つが同じものとして書かれている。「空白」を「余白」にかえるとき、谷川は「空」を借りている。「淡々と/意味もなく/自然に」だろうか。これは谷川の蝶になった夢だろうか。