谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(17) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(17)

(自然に帰依して)

自然に
帰依して
神を
忘れる

人智の
届かぬものを
名づけず
信じて

空は
宇宙へ
開き

草摘む手
泉に
触れる

 草を摘む手が、そのとき草に触れるだけではなく、草の「内部」にある泉に触れると読んだ。谷川が「泉」と名づける前は存在しなかったひとつの「宇宙」である。「摘む」が「触れる」に変わる瞬間の驚き。

 

 

 

 

(自然に帰依せず)

自然に
帰依せず
ヒトは
不吉

言語に
溺れ
数字に
縋り

混沌に
意味
一閃

なお
未明に
夢魔

 「溺れる」と「縋る」は「帰依」とどういう関係にあるか。「自然」と「混沌」はどういう関係か。「言語」「数字」が「意味」なら、「混沌」は「夢魔」か。私は「混沌」を「自然」と考える。無為の状態、と。

 

 

 

 

 

(昼と夜の)

昼と
夜の境に
立ち
闇を待つ

木立が
見えなくなる
人も

暗がりに
身じろぐ
言葉の

ひそやかに
何一つ
指さずに

 「何一つ/指さず」という状態が「混沌」というものではないだろうか。それが、同時に「自然」。自足して、そこにある。何もせず、ただ「足りる」だけがある。ことばにした瞬間、失われてしまうが。