谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(15) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(15)

(悪は)

悪は
ヒトのもの
天地を
他所にして

手足は
具体
ココロは
抽象

地を掘り
天に焦がれる
ヒトの生き死に

朝の汀に
詩の
足あと

 足跡ではなく「足あと」。なぜ、ひらがなにしたのだろう。「跡」という具体的なものが消えて、「音」が広がる。具体的なものをもとめて。そのとき「足」が「肉体」として見えてくる。砂に触れて、砂がくぼむ。

 

 

 

 

(言葉は騙り)

言葉は
騙り
手足は
黙々

星辰に
疎く
人事は
不断

功を誇り
嫉視を
斥け

自我を
祀る
無恥

 「騙る/語る」「星辰/精神」「無恥/無知」。音で聞けば、私はきっと間違える。「不断/普段」も間違えるかも。「疎く」が「有徳」なら、「嫉視」にも同音のことばがあるか。「ある」と語れば、騙るになるか。

 

 

 

 

 

(気持ちが)

気持ちが
淀む

私は
何を
待っているのか

一日は
遅々として
明日は
迅い

言葉に
囚われて
言外へ
亡命する

 「亡命する」。「難民」の方が私にはしっくりくる。「政治難民」ということばがあるが、「難民」が「亡命(者)」より多いからだろう。「難民になる」ではなく「難民する」という動詞が生まれてくるかもしれない。