情報の読み方 | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

 読売新聞夕刊(2021年5月8日)に、非常におもしろい記事が載っている。
 見出しと記事。

 五輪へ WHO「日本信頼」/幹部「あらゆる決断委ねる」
 【ジュネーブ=杉野謙太郎】世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は7日、東京五輪・パラリンピックについて、日本政府などを「非常に有能だ」と強調した上で、「競技会場の観客数やその他のあらゆる決断について、日本側に委ねたい。公衆の保健を守るため、非常に組織的なリスク管理の手法をとっているとみている」と述べ、信頼する姿勢を見せた。
 オンラインでの記者会見で語った。約2か月後の大会を安全に開く方法はあるかを問われ、ライアン氏は「大会を開催できるかどうかではなく、(選手の安全や観客の有無など)個別のリスクにどう対応していくかだ」と指摘した。
 現時点で観客数が未定となっていることについては、「主催者の落ち度ではまったくない。その時の感染状況によってしか判断できないからだ」と擁護した上で、「国際オリンピック委員会と東京都全体、そして日本政府が、リスクの最善の管理をするために正しい判断をすると信頼している」と述べた。

 さて、これをどう読むか。読売新聞は、マイク・ライアンの言ったことをそのまま「正しい」ものと判断している。
 「オンラインでの記者会見」に参加したのは何人なのかわからないし、どの国の記者が参加したのかもわからないが、記事がオリンピックと日本の感染対策に限定されているところを見ると、日本のジャーナリストだけが参加しているのかもしれない。いま、いちばんの問題はインドの感染爆発なのに、それについては一言も触れていないので、私は、そう想像するのである。
 さらに、マイク・ライアンがどのような政策を具体的に評価しているのかわからない。日本の感染者は、たしかに他国に比べると少ないから「日本政府は無能だ」とは言えない。言うなら「有能だ」としか評価のしようがないだろう。
 問題は最後の段落。
 「国際オリンピック委員会と東京都全体、そして日本政府が、リスクの最善の管理をするために正しい判断をすると信頼している」
 「正しいと判断している」とは言っていない。「正しい判断をすると信頼している」。これはリップサービス。そして、問題の「丸投げ」。
 オリンピックで何が起きようが、それはWHOのかかわる問題ではない。国際オリンピック委員会(バッハ)、東京都(小池)、日本政府(菅)が責任をとればいい。WHOにはオリンピック開催に関する権限はないから、知らん顔。「不安を抱いている」とも「安全を保障する」とも言わない。「不安を抱いている」といえば、日本がWHOに金を出さないと言いかねない。「安全を保障する」と言えば、感染が拡大したときWHOとマイク・ライアンの責任が問われる。
 つまり、「不安である」「信用できない」とは、絶対に言うはずがないのである。
 これは、菅がアメリカまで行ってバイデンと会見したときのバイデンのセリフそっくりである。「日本の姿勢、開催へ向けた努力を支持する」と言っただけで、アメリカが何らかの協力をする、大選手団を送りこみ大会を盛り上げると言ったわけではない。政治家だから、自分の責任が追及されるようなことは言わないのだ。そうした強い意識があるからこそ、相手に責任を押しつけた形でのリップサービスはするのである。
 だいたい、どんなときでも「決断を委ねる」というのは、「あんたが自分の責任でしなさい、私は知りません」という意味でしかない。何も外交にかぎらず、ふつうの日常生活の会話でも同じ。「好きにしたら」というのは、自己責任でやりなさい、ということである。こういうのは「擁護」でも「信頼」でもない。「放置」である。
 他紙がどう書いているか知らないが、リップサービスをそのまま信じて読者に伝えるなんて、記者のすることではないだろう。

 

 

 

#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞

 

*

「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞

 

*

「天皇の悲鳴」(1000円、送料別)はオンデマンド出版です。
アマゾンや一般書店では購入できません。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

ページ右側の「製本のご注文はこちら」のボタンを押して、申し込んでください。