熱を出した。うつらうつら浅く眠った。
そして夢を見る。とりとめのない夢。
ひとつだけ覚えている。
子猫がぞろぞろ出てくる夢だ。
夢の中で、我が家の飼い猫がニャーンと鳴く。
我が家の2階の窓の上には、10センチ四方ほどの換気口があるのだが。
ん?現実にはそんな換気口はない。
夢の中ではあった、換気口。
その換気口に向かって、飼い猫がしきりと鳴く。
私もつられてそっちを見る。
高いところにある換気口から、子猫が一匹、入り込んできた。
うちの猫によく似た、キジトラ柄だ。ここ、2階だよ!?
飼い猫はぴょんぴょんとジャンプ。
カーテンレールに登り、換気口から首を出してキョロキョロしていた子猫を咥え、またぴょんぴょんと降りてきた。
そして、私を見てニャーンという。
それで、この子猫はうちの飼い猫の子供なんだとわかった。
ところが、実際は飼い猫は去勢済みのオスで、外には出していない。
うちの猫に子供がいるとは考えられないが、夢の中では納得している。
子猫は、うちの飼い猫をかつて拾ってきたときと同じで、鼻水と目やにと排泄物で汚れ、ガビガビに固まっている。
砂埃にまみれ、顔が逆三角形になるくらい痩せている。
可愛いねえ、お母さん猫はどうしたの?
私はすぐ夢中になって、子猫に訊く。
暖めてやらなきゃ。湯たんぽ!
夢の中は便利で、たちまちどこからか湯たんぽが出てきた。
子猫は湯たんぽの上でキイキイとわめく。
手のひらに乗るくらい小さい。
猫ミルク買ってきて!私は家族に向かって叫ぶ。
これまた夢の中のご都合主義で、家族は「あるよ」と猫ミルクを出してくれた。
次に「獣医さんに診せなくちゃ!」とスマホを取り出し、オンライン予約。
午後の診療枠がひとつ空いている。ポチっと。
子猫用のキャットフードもいる。ネットショップのアプリを開ける。
夢の中なのに、やることが細かい。
また飼い猫がカーテンレールにあがり、換気口から2匹目の子猫を咥えてきた。
これは白黒ブチ猫。キイキイ鳴く子猫が2匹になった。
そしてまた1匹。また1匹。
たちまち部屋が猫だらけ。キイキイ、キイキイ。
家族総出で、てんやわんやで子猫たちの世話をする。
飼い猫も、いいお父さんっぷりを発揮する。
彼の担当は、子猫を順に舐める係。
舐める力が強すぎて、舐められている子猫が時計回りに回転している。
この子猫4匹も今日からうちの子。家族でワクワクはしゃぐ。
名前をつけてやろう。5匹もいたら、掃除も大変。
猫は20年以上生きることもある。
少なくとも私はあと20年、元気で猫の世話ができるよう、稼ぐ。
覚悟はアッサリと固まった。
軽率だろうがインスタントだろうが夢の中だろうが、覚悟は覚悟だ。
そして、目が覚めた。
私は熱を出して、年度末の昼間というのに寝ていた。
隣にただ1匹の、キジトラの飼い猫。
飼い猫は伸びをして、ベッドを出ていった。
この猫はたぶん子猫は可愛がらない。いつだって自分最優先だ。
喉がかわいた。起き上がって水を飲む。
エアコンの隣。掃き出し窓の上。
換気口はない。わかっていても何度も見てしまう。
仕事しなくちゃ。熱がさがったら忙しくなる。
いつでも猫5匹を扶養できるように。