螢源氏の言霊
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【反逆のロックスター「ミカボシ」の謎】②宿敵・タケハヅチの正体と忌部氏の最終兵器





目次

【反逆のロックスター「ミカボシ」の謎】①日本書紀に封殺された「悪神」の正体!!



宿敵・タケハヅチの正体


タケハヅチ

(建葉槌命、天羽槌雄神、倭文神)



アマツミカボシの宿敵。


祭祀を司る一族の出でありながら、第二次連合(大和王朝)軍の武将として知略をめぐらせた謎多き人物、それがタケハヅチだ。



ミカボシ解くためには、まずこのタケハヅチの正体を明らかにする必要がある。


彼はマイナーな存在だが、古代マニア界隈ではミステリアスな神として有名だ。





ミカボシと同じく、あの映画『君の名は。』の作中設定として登場するとか。


おそらくこの記事は、今までの誰の研究より、タケハヅチについて詳しく考察できたと思う。



(なお、よく似た名前の「タケミカヅチ」との混同を避けるため、以下「ハヅチ」とする)


ハヅチの素性


ミカボシと同じように、「タケハヅチ」の名が記された古代の史料は、日本書紀しかない。


それが、前回も取り上げた記述②である。



一説によれば「二神(タケミカヅチとフツヌシ)は、ついに邪神や草木・石の類(出雲族・出雲王朝)を誅伐し、皆すでに平定した(第二次連合を成立させた)。

唯一従わぬ者は、星の神・カガセオ(ミカボシ)のみとなった。


そこで倭文神・タケハヅチを派遣し、服従させた。

そして、二神は天(九州王朝・第二次連合)に登っていかれた。


倭文神、これをシトリガミと読む。」

大和朝廷『日本書紀』(720年、舎人親王編・藤原不比等監修)巻第二 神代下 第九段本文



この記述を踏まえ、私は以下のようにハヅチの素性を推測した。


・武将である。

・織物の「倭文織しずおり」の生産者でもあり、祭祀や呪術に縁が深く、重要な役割を担っていた。

・あのフツヌシとタケミカヅチがいるなかで、最も大きな手柄(ミカボシを服従させた?)をあげているため、相当の武勇と知略があった。



倭文織の生産者


まず、「倭文織しずおり」とは、古代日本オリジナルの織物のことである。


高貴な人の衣類、神事などに使われたらしく、古代においてたいへん重宝されたようだ。





ハヅチが「倭文神しとりがみ」と称されている以上、この倭文織の生産を司っていた人物であると考えて良いだろう。


神事に使われていたことから、倭文織に呪力があると考えられていたことがわかるが、祭祀と呪術との繋がりについては、後で述べる。


古代の有力者


よく、ネットのミカボシ考察で、以下のようなしょうもない解釈が散見される。



「なぜ、タケハヅチは織物の神でありながら、ミカボシを服従させることができたのか?」

機織はたおりは女の仕事なので、タケハヅチは女神だったのである」

「タケハヅチは武力に頼らず、ミカボシを懐柔かいじゅうすることによって服従させた」



全くのファンタジーである。


まず、当然ながら、ハヅチ自身が機織りとしてせっせと倭文織を作っていた訳ではない。





アパレルメーカーの経営者が、自ら衣服を縫うことはないのと同じだ。


織物の生産を統括し、利権を握っていた有力者としてハヅチを見るのが現実的であろう。



ZOZOの前澤氏に対して「なぜ、服屋のオヤジなのに、月旅行に行けたのか?」という議論をしたりしないのと同じである。


彼は億万長者である。





そもそも、古代において有力者でもなく、また有名人でもない者が神話に載るはずがない。


ハヅチは、不思議な呪力をもった単なる機織りではなく、織物生産の多大な利権を握っていた古代の有力者とするのが妥当だ。


武将・ハヅチ


そして、古代の有力者が武力を有することは、一族を守るうえで当然のことであり、ハヅチが武将であるのは、至って自然なことだ。


もちろん、女神でもない。



タケハヅチという名のうち、ハヅチが本名で、「タケ」(=武、猛々しい)は、本人の武勇を讃えてつけられた諡号であろう。


タケミカヅチ、タケミナカタと同じだ。





タケハヅチの漢字表記は「建葉槌」であるが、「武刃槌」と書いたら、かなり強そうな武人の印象になる。


ハヅチに女性的な印象を抱くのは、まったくの的外れであるといって良く、その正体は至って男性的な人物である。



そもそも、武力以外の方法で、ミカボシを攻略することなどできようか。


もし懐柔策などの調略、経済制裁など非武力の戦いを実行するにしても、その背後には武力が必要不可欠である。





後述するが、ハヅチが陣を敷いた場所、武力によってミカボシと戦った伝承地など、具体的な形跡も残っている。


何度でも言うが、ミカボシとハヅチの戦いは、空想上の神話などではなく、実在した歴史上の戦争なのである。


日向の祭祀と呪術を担った


さきほど「タケハヅチ」の名が記された古代の史料は日本書紀しかないと言ったが、どうやら別名で登場している史料があるようだ。


それが、平安時代初期の貴族である斎部広成いんべのひろなりが書いた『古語拾遺こごしゅうい』という神道資料である。





そこには、「アメノハヅチオ」(天羽槌雄神)という別名でハヅチが記されてある。


といっても、ちょい役で登場するだけである。


(前略)

天羽槌雄神あめのはづちおのかみ倭文しとりの遠祖)に文布あやぬのを織らせます。

(後略)

斎部広成『古語拾遺』(807年)一巻



原文
令天羽槌雄神【倭文遠祖也】織文布




たったこれだけである。


だが、この記述だけでも、ハヅチの素性を解く手がかりとなる。



「アマテラスの岩戸隠いわとがくれ」という日本神話上のエピソードをご存知だろうか?





・太陽神のアマテラスが、弟であるスサノオのあまりのヤンチャっぷりに激怒して、天岩戸あめのいわとに引き篭もった。

・世界が闇に包まれた。

・神々が集まり、さまざまな儀式を行うことでアマテラスが出てきて、光が取り戻された。



という有名な神話だが、これはもちろん史実のスサノオやアマテラスの話ではなく、なにかの隠喩を話にしたものだろう。


また、集まった神々とは、日向ひむか族、九州王朝の女王・アマテラスの臣下たち、つまり実在した有力者をモデルとしたキャラである。





しかも、儀式を行なっていることから、祭祀や呪術にゆかりの深い有力者たちが集まっていたことが察せられる。


ついでだが、アマテラス=卑弥呼、九州王朝=高天原・邪馬台国である。



そして、さきほどの古語拾遺のハヅチの記述、



天羽槌雄神あめのはづちおのかみ文布あやぬのを織らせます。」



実はこれも、岩戸隠れのエピソード真っ只中のシーンなのである。


ほかの神々が玉や鏡など、儀式に必要な道具を作っているなか、ハヅチもそのひとりとして、文布(倭文織)を織っている。





ちょい役ではあるが、アマテラスを天岩戸から出すために、神々が様々な儀式をするという、花形のシーンに出演しているのだ。


古事記・日本書紀の岩戸隠れに、ハヅチは登場していないが、それよりも後の時代の書かれたこの古語拾遺には、ハヅチが追記されている。


倭文氏の祖


さきほどの古語拾遺の短い記述だけからでも、以下のようなハヅチの素性がうかがえる。

・日向、九州王朝に仕えていた有力者である。

・倭文織の生産を司っていた。

・祭祀と呪術を担っていた。

倭文氏しとりうじの祖である。



大体は、これまでの考察を通してわかった。


では、最後の「倭文氏しとりうじ」とはなにか。



古語拾遺に、ハヅチは倭文(氏)の遠祖とあるように、ハヅチを祖とする氏族のようだ。


どうやら読んで字のごとく、倭文織を生産していたようで、日本各地にその拠点の跡がある。





それが「倭文神社しとりじんじゃ」として現在も残っており、いずれもハヅチを祭神としている。


ハヅチが空想上のキャラクターなどではなく、実在した人物であることは、実際に子孫がいたこと、祀られた神社があることからわかる。



ならば、この倭文氏、つまりハヅチのルーツはどんな氏族なのか。


考察を深めていくうちに、実に興味深いことが明らかになった。


ハヅチは忌部氏だった


ハヅチの別名「アメノハヅチオ」が記録された史料がないものかと、探してみた。


すると『安房国忌部家系あわのくにいんべかけい』という、明治時代に世に出された家系図が出てきた。





これは、あの忌部氏いんべうじの家系図である。


忌部氏とは、日向族(天皇家)の祭祀を司り、裏天皇の一員となって日本を陰から支配した、レビ族をルーツとする氏族のことだ。





ただし、忌部の総本家のような直系だけが黒幕なのであり、そのほかの傍系や分家はほとんど一般の氏族と考えて良いだろう。


この家系図も、千葉県に移住した忌部氏の傍系である、安房あわ忌部氏の末裔によって代々まとめられたものである。





そして、実はさきほどの古語拾遺の著者である斎部広成いんべのひろなりも、忌部氏の末裔だ。


これがどういうことを意味しているのか。



さて、『安房国忌部家系』に戻ろう。


その序盤のページに、ハヅチの名があった。



安房国忌部家系 - 国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2538213



天日鷲命あめのひわしのみこと
大麻比古命おおあさひこのみこと
天白羽鳥命あめのしらはとりのみこと
天羽雷雄命あめのはづちおのみこと

『安房国忌部家系』(明治時代、小杉椙邨編)



すなわち、ハヅチは忌部氏だったのだ。


これで、祭祀と呪術にゆかりが深かったこと、神事に欠かせない倭文織を生産していたことも納得できる。



また、これもアメノハヅチオの名前で記されているが、いずれも「雄」の字があてられている時点で、彼が男性であったことは明白だ。


フツヌシの子


そしてなんと、この家系図によると、ハヅチはアメノヒワシ、つまりあのフツヌシの子とあるではないか。



フツヌシ

(経津主神、斎主神、天日鷲命、香取大明神)



フツヌシが忌部氏の出であることは事実だが、ハヅチがその子であると明記していることが、実に興味深いことである。


この安房国忌部家系の内容は、疑わしい部分があることは確かだ。



しかし、フツヌシという武勇と霊力にあふれた偉人を先祖にもつ忌部氏にとって、マイナーなハヅチをその息子だと偽るメリットはない。


よって、ハヅチがフツヌシの子であるのは事実であると考えて良いだろう。





ハヅチを神話の表舞台に押し上げた古語拾遺を書いたのが、忌部氏の斎部広成であること。


そして、日向に仕えていたということ、祭祀と呪術を担っていたことを考えれば、逆にむしろハヅチが忌部氏でないほうがおかしい。





名前が似ているので、タケミカヅチの息子説も考えてみたが、そもそもタケミカヅチの出自が不明(秦氏はたうじ?)なので、なんとも言えない。


フツヌシとハヅチの共通点と特殊性は、祭祀を担いつつ武勇もあったということだが、これも親から子に引き継がれたものなら納得だ。



まだ暫定だが、忌部氏の系図。



前回にも書いたとおり、ミカボシは第二次連合(大和王朝、神武朝)に反逆して、フツヌシ、タケミカヅチ率いる追討軍と戦った。


このことから、フツヌシの息子であるハヅチも第二次連合軍の武将であり、父を助けるために参戦したと考えられる。



岩戸隠れの話を考慮すれば、元々は九州王朝にいたことは確かだが、第二次連合(神武朝)が成立したので、父とそちらに移ったのだろう。


まとめ


原段階でわかった、ハヅチの素性をまとめた。


・忌部氏の出自で、フツヌシの子である。

・九州王朝の女王であるアマテラスに仕えて、倭文織を生産することで祭祀と呪術を担った。

・第二次連合の武将であり、アマツミカボシを攻略したことから、その武勇が讃えられた。






あのフツヌシ、タケミカヅチをもってしてでも歯が立たなかった、ミカボシの勢力を攻略することに成功したハヅチ。


まさしく、忌部氏の最終兵器といって良い。


あとがき


忌部氏とは、日向族(天皇家)の祭祀と実権を掌握し、日本を陰から牛耳るため、日向専制と出雲排斥の陰謀を実行した氏族である。


その忌部氏出身のハヅチが、ミカボシの勢力を攻略したということは、ミカボシがどの氏族の出身であるのか、もうハッキリしてきた。





もし、このシリーズが正史として扱われたら、ミカボシと同様に、このタケハヅチも日本史の教科書に載るかもしれない。


この両者の戦いは、短期間の出来事だったとは思うが、まるで古代版の大坂冬の陣、夏の陣のようなインパクトがある。


大訂正


そういえば、以下の過去の記事で、ミカボシを古墳時代(6世紀)の人物と推測していたが、今思えばまったくの見当外れであった(笑)



物好きたちの夏と支配からの独立2 〜鬼の祭祀者〜

史上初の神主・オオタタネコの本名と古代日本人の性生活





第10代・崇神すじん天皇の時代の人物で、四道将軍しどうしょうぐんに抗戦したという、妄言のような考察だったが、ちゃんと日本書紀を読んでいなかった結果だ。


実際には、ミカボシは神武天皇の時代、つまり弥生時代(3世紀)の人物であり、戦ったのはハヅチである。


失われた欠片を埋める


前回、当シリーズの史観についてこう述べた。



在野の歴史研究家、故・原田常治はらだつねじ氏の著作、それと同史観の宇宙神霊アーリオーンの啓示を土台としている



しかし、原田氏もアーリオーンも、ミカボシやハヅチについては、まったく言及していない。


知らなかったのか、それともメインストーリーではないと思ったから省いたのかは不明だが、私はまったくの一から考察することになった。





スサノオ〜イワレヒコ(神武天皇)の即位までであったら、両者の研究や言葉を下敷きにすることができた。


しかし、今回はまったく下絵のない状態から、ミカボシの人物像、またはその時代の出来事の輪郭を描き出している。





とは言っても、原田氏とアーリオーンが残してくれたパズルのピースが既にある。


後は、その欠けている部分を埋めていくだけのことだが、実はその欠けている部分こそが核心なのであり、それを埋めてこそ完成なのだ。



次回、その核心に迫る。



つづく。


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