四間飛車 第22期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局 深浦康市-森内俊之 棋譜検討(▲穴熊△5四銀) | 将棋・序盤のStrategy ~ 矢倉 角換わり 横歩取り 相掛かり 中飛車 四間飛車 三間飛車 向かい飛車 相振り飛車 ~

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オールラウンドプレイヤーを目指す序盤研究ブログです。最近は棋書 感想・レビューのコーナーで、棋書の評価付けもしています。

「興味のある棋譜は?」のアンケートで、
好きな棋譜を教えて下さった方がいるので記事にしてみます。
話題の棋士ですしね。

【公式サイト】
第22期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局 深浦康市-森内俊之

【棋譜DB】
第22期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局 深浦康市-森内俊之

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先手:深浦康市
後手:森内俊之

▲7六歩    △3四歩    ▲2六歩    △4四歩    ▲2五歩    △3三角
▲4八銀    △4二飛    ▲6八玉    △6二玉    ▲7八玉    △7二銀
▲5六歩    △7一玉    ▲5八金右  △3二銀    ▲7七角    △5二金左
▲5七銀    △9四歩    ▲8八玉    △6四歩    ▲9八香    △4五歩
▲6六歩    △7四歩    ▲9九玉    △7三桂    ▲8八銀    △4三銀
▲7九金    △5四銀
(下図)

▲居飛車穴熊△5四銀型。

上図から▲2四歩△同 歩▲6五歩は、
△同 桂▲3三角成△同 桂▲6八銀△2五歩で大丈夫。

上図以下
▲9六歩    △8二玉    ▲6七金    △6三金    ▲3六歩    △8四歩(下図)

上図から▲3五歩△同 歩▲2四歩は相当有力。
△8五桂で角を追うのは▲2三歩成が強手。以下
△7七桂成▲同 金(下図)

上図以下・・・
1.△4四角には▲2四飛が好手で、
  次に▲3二ととした時、4四の角が負担になる。
2.△1五角には▲3二と△4四飛▲2一飛成△2四飛
  ▲同 竜△同 角▲2一飛△1五角に▲6八銀で先手勝ちやすい。
3.△3九角は▲3三と△同 桂▲2一飛成△5七角成▲3四歩で先手良し。

この変化は、角桂交換でも振り飛車がなかなか良くならないので、
▲2四歩には△同 歩▲6五歩△同 桂▲3三角成△同 桂(下図)

公式サイト では、▲6五歩に△7七角成の変化が示されているが、
▲同 桂△6五歩▲2四飛△2二歩の進行は▲3一角で居飛車が良いと思う。以下
△4一飛▲2二角成△4九角▲6八金引△7五歩▲5五歩
△4三銀▲6四歩△7四金▲2一馬△7六歩▲8六桂・・・
この攻め合いは居飛車玉が深く、振り飛車が勝てない。

しかし、上図の変化も▲6八銀と引いて先手が良さそうだ。
▲2四飛と▲6六角のラインで十分手になる形である。

もし、△6三金と上がっていなければ、
▲6六角に△4三金と受ける筋が生じるので、
高美濃の完成が先手の仕掛けを誘発している面がある。

本譜は△8四歩以下
▲5九角    △1四歩    ▲1六歩    △8三銀    ▲3七角    △7二金
▲6八銀    △8五歩
(下図)

△8五歩は▲8六歩~銀冠穴熊を嫌ったものか。
または、屋敷-鈴木戦 のような打開すらある。
他にメリットを感じる手が少ないという事もあるだろうが・・・

上図では▲7七金も有力。
以下▲6七銀~▲7八金引~▲5八飛~▲5五歩という感じで、
徐々に形を良くしていく狙いなのだけど、
対する後手はあまり抵抗する手段を持たないのが辛いところ。

例えば、上図からの▲7七金に△4三銀と引ければ良いが、
▲4八角△5四歩に▲3七桂が調子良く、以下
△4四銀▲5七角△2二飛の進行は後手に不満がある。

結局、▲7七金には徹底待機するしかなさそう。
△4一飛    ▲6七銀    △4二飛    ▲7八金引  △4一飛    ▲5八飛
△2二角    ▲5五歩    △4三銀    ▲5六銀    △5二銀(下図)

△5二銀のところで△4四銀もあるが、▲2六角で後手不満。
この周辺は居飛車穴熊必勝ガイド に詳しい。

上図も特に後手を持って自信がある訳ではないが、
△1三角を含みに捌きのきっかけを得ていく展開か。
先手も打開策に課題があるかなぁ、という感じ。

本譜は△8五歩以下
▲7七銀右  △4一飛    ▲7八金    △9二香    ▲5八飛    △4三銀
▲6八銀    △4四銀    ▲7九銀右  △5四歩    ▲5九角    △5三銀
▲6八角
(下図)

深浦先生は、苦心の手順で松尾流穴熊に組み替えた。
リアルタイムで見てた時は、「なるほどなぁ」と思ってたんですけど・・・

上図以下
△1五歩    ▲同 歩    △6五歩    ▲同 歩    △1五香    ▲同 香   
△6六歩    ▲5七金    △6五桂
(下図)

△1五歩△6五歩が上手い仕掛けで後手ペースに。
この戦形は、先手が好きなだけ組み替えられる展開が多いので、
もしかしたら、仕掛けを軽視された・・・?

上図以下
▲5九角    △6四銀    ▲3七角(下図)

ウソです、軽視なんかしてません(笑)
▲5九角▲3七角は味の良い角の繰り替えですね。

上図以下
△4六歩    ▲同 歩    △7五歩(下図)

△4六歩は手筋。
▲同 金は△4五歩、▲同 角は△1五角が生じるということで、
▲同 歩はこう指すところですか。

続く△7五歩について、公式サイト を見ると、
深浦先生は上図で▲7五同歩に未練がありそうだった。
森内先生に聞き返されて意見を飲み込む様子が記されているが、
実際、▲7五同歩は有力な手だったと思われる。

▲7五同歩以下、公式サイト には
△7七歩    ▲同 桂    △同桂成    ▲同 銀    △6五桂    ▲6六金
△7七桂成  ▲同 金    △7五銀(下図)

という手順が示されている。

一見気持ち良いが、▲4五歩~▲4四香で角道を止めて難しい。
7五の銀が消えると▲7五桂と打たれるから、後手玉も危ないのだ。
深浦先生はこの辺りを読んでいたと推測される。

しかし、上図を見ていると、
例えこれで難しくとも、踏み込めるかと言えば・・・
もっと手堅い手順が無いか、と思うのも頷ける。

上図以下
▲6九香    △5七桂成  ▲同 飛    △7六歩    ▲6五歩    △7五銀
▲4五歩
(下図)

という訳で、▲6九香は堅い受けなんだけど、
△7六歩と取り込めて、後手は上部に分厚い陣形になってきた。

▲4五歩は期待の王手だが・・・

上図以下△7三金打(下図)

森内流の手順が、この将棋を名局にしていく。

上図△7三金打は、
第16回升田幸三賞の選考委員だった高野秀先生が、
歴史に残る妙手として升田賞に推した一手である。

上図以下
▲4四桂    △9五歩    ▲7七歩    △9六歩    ▲7六歩    △8四銀引
▲6六香    △7四金左
(下図)

更に、この局面が凄まじい。
「W銀冠」とでも言うのでしょうか。
銀冠に銀冠を付けたような構えで、
後手を持っていたらニヤニヤしそうです(笑)

上図以下
▲6七飛    △6三歩    ▲3二桂成  △4五飛    ▲3三成桂  △同 桂(下図)

△6三歩と先受けまでされては手が無くなった。
△9一飛のような、ゆっくりした攻めが間に合っては話にならず、
▲3二桂成とアクセルを踏んだけれど、上図まで進んで後手好調。

上図以下
▲4六歩    △2五飛    ▲2八歩    △7五歩(下図)

△7五歩は将棋ですねぇ。

・・・この表現、一般的なのかな?
この場合、将棋はこう指さなくてはいけないですねぇ、の略です。
悪手だらけで泥仕合になった時も「将棋ですねぇ」と言いますが、
要するに、将棋ってそういうものだよね、と言いたい時にこのセリフが出ます。

将棋ですねぇ。

上図以下
▲4二角    △7六歩    ▲3三角成  △7五桂    ▲4七飛    △9七歩成(下図)

△7五歩△7五桂に繋げるのが何とも味良し。

上図から▲同 香には、
△同 香成▲同 銀△9六歩▲8八銀△8六歩・・・
盤面の歩を押し上げる攻めが、陣形の厚みを活かしてピッタリ。

上図以下
▲同 銀    △同香成    ▲同 香    △9六歩    ▲同 香    △9五歩
▲1七桂    △9六歩    ▲9八香
(下図)

▲9七同銀の勝負手で手を稼ぎ、▲1七桂の一手を捻出しましたが、
△9六歩の取り込みが入っては寄せの形が見えてきました。

上図以下
△7七香    ▲同 桂    △8六歩    ▲8九香    △1五飛    ▲同 角
△9七香
(下図)

やはり△8六歩の実現が寄せのカギですね。
△7七香▲同 桂で先手の飛車の横利きを止めたのが巧妙です。

上図まで、122手で後手の勝ち。
玉頭の厚みとは対照的に、飛車側の捌け方が素晴らしいです。

この将棋は、2009年度の名局の5位になっています。


うーん、それにしても森内先生、フリークラスとは・・・
大らかな印象を勝手に持っていたので、驚きました。
これが順位戦・名人戦に全力を尽くし、実績を残した者の最後ですか・・・

しかし、こうなってみると、
フリークラス棋士初のタイトル奪取を期待してしまいます。
でも、理事をされるとなれば忙しくなるし、難しいのかなぁ。
本気で将棋界を支える覚悟なんでしょうしね・・・
となれば、理事としてタイトル級の働きを期待するところです。

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