女流二強の戦いの歴史から学ぶ | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんにちは。雁木師でございます。今日は久しぶりに書籍をご紹介します。今回は名局集の書籍紹介です。

現在の女流棋界の二強とも言える福間香奈女流五冠(清麗、女流王座、女流名人、女流王位、倉敷藤花)と西山朋佳女流三冠(白玲、女王、女流王将)。このお二人の戦いの記録をまとめた書籍が、昨年愛蔵版として発売されました

 

そして先月、Amazonからソフトカバー版が発売されました。

 

 

 

今回は、この

里見香奈VS西山朋佳 実戦集」

をご紹介させていただきます。

 

日本将棋連盟刊、マイナビ出版販売です。この著書の主人公ともいえる、福間(当時里見)女流五冠と西山女流三冠についてですが、今回紹介する書籍に詳細が書かれていますので今回は割愛させていただきます。ぜひ、本書をご購入の上チェックしてみてください。なお、今回は愛蔵版のデータを基に紹介していきます

 

本書で収録されている棋譜は、初めての公式戦対局となった第2期女流王座戦本戦トーナメントから昨年10月に行われた第3期第3期白玲戦七番勝負第7局までの66局ですが、愛蔵版の発売後の第31期倉敷藤花戦三番勝負、第50期女流名人戦五番勝負、そして第74回NHK杯女流枠出場者決定戦で対局を重ね、これまでに73局戦っています。対戦成績は福間女流五冠の40勝、西山女流三冠の33勝です(4/20時点)。

 

では書籍の内容に入ります。本書はタイトルのとおり、福間女流五冠ー西山女流三冠の戦いの歴史をお二人のインタビューを交えながら振り返っていく内容です。全部で4部構成となっています。まずは、巻頭カラーでお二人のカラーグラビア写真とインタビューの言葉の一部を紹介。

 

第1部「インタビュー

お二人がお互いの印象や棋風などを語りつくす内容となっています。架空対談と称して、お互いの質問を回答していく形式もご用意されています。

 

第2部「これまでとこれから 記録でたどる二人の軌跡

かつて「週刊将棋」の編集長を務めた将棋ライターの雨宮知典さんによる、お二人の記録から戦いの歴史を振り返るというものです。全部で5テーマで構成されています。お二人の実力、これまでの歩み、戦い、棋風、そしてこれからという内容です。

 

第3部「トップ棋士が語る二人の好局

藤井猛九段と菅井竜也八段という振り飛車党のトップ棋士お二人による福間女流五冠、西山女流三冠の好局を解説していただく内容です。福間女流五冠の好局は菅井八段、西山女流三冠は藤井九段による解説です。それぞれ4局ずつ解説されています。

 

第4部「解説編

第3部で解説された8局を除く、58局を後輩女流棋士と編集部による解説です。解説を担当した女流棋士は山根ことみ女流三段、石本さくら女流二段、小高佐季子女流初段、佐々木海法女流初段の4名です。だれがどの将棋を解説されたかは、実際に本書を読んでお確かめください。

 

以上が本書の内容となります。実際に読んで棋譜を並べた感想を短歌にしてまとめてみました。

 

名局を

ともにかなでる

好敵手

切磋琢磨し

切り拓く世界

 

実際に棋譜を並べると、長い戦いの歴史の中において大きな変化が見て取れます。特に福間(本書では里見ですが…)女流五冠の戦法の変遷はここ2年ほどで大きく変貌を遂げました。これは中村太地八段と鈴木肇アマのYoutubeチャンネルでも取り上げられておりますので、本書や下記の動画からその歴史を学んでいただければと思います。

 

 

 

お二人の戦い方は私が実際に並べた見解だと…。

 

福間女流五冠は「柔軟」のイメージです。序盤構想、柔らかい駒の使い方、丁寧な受けなどがそう感じた理由です。序盤構想といえば、福間女流五冠の対西山戦の構想は今でこそ中飛車に振ってから居飛車に戻す「さよなら中飛車(棋士中村太地将棋はじめch命名)」や、玉と金が離れている金無双みたいな囲いの「離れ金無双」が有名です。しかし初期のころは居飛車も採用されておりました。これはお二人の戦いが女流棋戦では限られていたことも(西山女流三冠が当時奨励会員だったため)ありますが、相振り飛車での対西山戦での対策が難しかったのではというのも大きいと思います。

柔らかい駒の使い方とは、さばきの時に感じるのですが、飛車角の働かせ方がうまいといいますか、見習いたいといいますか…。とにかく実際に棋譜を並べると分かります。気持ちのいい駒の活用法が目立ちます。(語彙力の弱さは大変申し訳ございません)

丁寧な受けは、長手数の将棋で目立つのですが西山女流三冠の懸命の攻めをいとも簡単に受け止めるという印象を持ったのです。「受けつぶし」という表現も使いたくなるくらい福間女流五冠の受けは鉄壁です。もちろん、受け間違いや攻めか受けかの判断を誤って逆転を許すケースもありますが、受けの力が際立つ勝ち将棋も多いです。もちろん「イナズマ」に形容されるように、一度踏み込んだら一気に攻める瞬発力・決断力も際立っています。

 

西山女流三冠のイメージは「豪快」です。我が道を行くスタイル、ミスをとがめる強手、勝負度胸などがそう感じた理由です。

西山女流三冠は生粋の振り飛車党。福間女流五冠が西山対策にあれこれ織り交ぜてぶつけていきますが、西山女流三冠は一貫して振り飛車党で、三間飛車を軸とした戦い方です。もちろん福間女流五冠とのこれまでの戦いでは、振り直して向かい飛車などもありますが三間飛車で戦ってきたのがほとんどです。ここに我が道を行くスタイルがあると感じます。とはいえ、ずっと三間飛車では勝てなくなることもあったわけで向かい飛車にシフトチェンジされたこともあります。それでも振り飛車の軸はぶれてはいません

ミスをとがめる強手とは、実際に並べたときに解説を読んで思ったのですが、福間女流五冠の中終盤の小さなミスから生まれたわずかなスキを逃さない一手が多いと気づきました。もちろん将棋というゲームの性質上、ミスをすると一気に負けというケースもあるわけです。しかし、相手のミスを「ミス」と理解しているのか、そしてそれを正しく咎める一手が指せるのかは大局観も問われるところなので難しい部分ではあります。西山女流三冠はミスにつけ込む際に豪快に踏み込んでいく手順が多く、一気に攻め切る将棋も多いです。

しかし、福間女流五冠に指し手のミスをさせるのは至難の業。そこで次のポイントが勝負度胸です。本書を読む限り、西山女流三冠の将棋には逆転勝ちも多い印象があります。「将棋は逆転のゲーム」といいますが、最近は「藤井曲線」という言葉がでるくらい、プロ棋戦ではAIの台頭もあって逆転勝ちというよりは優勢をそのまま押し切って勝つ将棋も増えてきました。とはいえ、劣勢になったからと言ってそこであきらめるのではなく、いかにして勝負形に持ち込みミスを誘うかは大事なテクニックの1つであることに変わりありません。西山女流三冠の勝負手は豪快そのもの。タダの地点に駒を放り込み、取らせて局面を分からなくさせるということも目立ちます。もちろん福間女流五冠の丁寧な受けの前に不発というパターンもありますが、勝負手から逆転に持ち込む技も光ります。西山女流三冠の勝ち方には手数の長い将棋が多いですが、こうした不利な内容からの逆転勝ちが多いことも要因の1つです。

 

 

もう1つ並べて思ったのが、新しい相振り飛車の戦い方であると感じました。アマチュアの振り飛車党の方にはぜひおすすめしたい1冊かと思います。実は私も最近三間飛車が将棋ウォーズでブームなのですが、本書がきっかけで再来したと思っています。私の場合は西山女流三冠みたく豪快な三間飛車ではなく、角道を止めるノーマル三間飛車から藤井システムを狙っていく戦法ですが、お二人の独自の世界観を取り入れてみようと思い様々な振り飛車をやった結果、ノーマル三間飛車に落ち着きました。

真似してすぐつかめるものではありませんが、振り飛車特有のさばきのタイミング、仕掛けのポイント、受けのコツなど振り飛車のエッセンスが詰まった内容といっても過言ではありません。真似できるかどうかはともかく、振り飛車党なら一度目を通しておくべきかと思います。

 

 

さて、本書は貴重な女流棋士の戦いの記録です。現在の女流二強の戦いの歴史を一から学ぶ内容となっています。歴史書としても戦術書としても有効な名局集。ぜひ一度読んでみて、女流棋界の過去の記憶と未来への展望を覗いてみてはいかがでしょうか。

 

この本を読んで将棋が好きになった、将棋が強くなったというお声をいただければこれほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで、将棋が好きになる、将棋が好きになる、将棋の力が強くなることを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は、6/16(日)を予定しております。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

 

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