「二刀流」の誇り | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんにちは。最近は、ブログの執筆中にゲームのBGMを流すのが日課の雁木師でございます。今日は書籍をご紹介します。今回は「二刀流」にスポットライトを当てた書籍でございます。

 

 

将棋と麻雀。

頭脳戦の二刀流

49歳からの私の挑戦」

のご紹介です。

 

著者は鈴木大介(すずき・だいすけ)九段。株式会社ARTNEXT発行、日販IPS株式会社販売で先月発売された書籍です。ここで鈴木九段についてご紹介しますが、今回は書籍自体が自叙伝の要素を持っているので一部書籍の内容と被っている面がありますがご了承ください。

 

まずは将棋での実績から。鈴木九段は1994年に四段昇段。タイトル獲得はありませんが、竜王戦(第12期)と棋聖戦(第77期)で挑戦の経験があります。第12期竜王戦にて当時の竜王保持者である藤井猛九段に挑戦された際には、使用する戦法を予告するという大胆な発言が話題になりました。一般棋戦では、NHK杯(第49回)と早指し新鋭戦(第15回)で優勝経験があります。

将棋大賞では第24回(1996年度)に勝率1位賞(.757)、連勝賞(14連勝)、新人賞を受賞。第27回(1999年度)では敢闘賞。第32回(2004年度)では升田幸三賞(石田流において新手を発見し升田式石田流の復活に寄与)を受賞されました。

棋風は振り飛車党で、早見え早指しの棋風。藤井猛九段、久保利明九段とともに平成の振り飛車党の「御三家」として振り飛車党のファンからの支持を獲得。将棋に関する著書も振り飛車に関する書籍が多いです。

 

 

 

 

このうち、「四間飛車名局集」は第28回将棋ペンクラブ大賞の技術部門で大賞を受賞されています。また、かつてヤングジャンプで連載され、のちに実写ドラマ化された「ハチワンダイバー」の将棋監修も担当されました。

 

 

2017年からは日本将棋連盟の常務理事に就任。今年の6月まで務め、佐藤康光会長下での連盟の運営に尽力。現在のABEMA将棋チャンネルの開設に貢献されました。今年の5月にご自身のYoutubeチャンネル「Dの流儀」を開設。

 

 

 

将棋では、将棋ウォーズの対局の実況解説が中心。

 

 

 

麻雀では、最近対局の検討配信を始められました。

 

なお、現在は第37期竜王戦は3組、順位戦はB級2組で3勝4敗の成績です。

お弟子さんは梶浦宏孝七段。ABEMA師弟トーナメントでは師弟でタッグを組んで準優勝の実績もあります。また、本書でも触れられていますが、一時期は永瀬拓矢九段の研究相手としても知られていました。

 

 

続いて麻雀での実績をご紹介します(なお、私は麻雀の知識は素人なので至らない点もありますがどうかご容赦ください)。

将棋の奨励会時代に、麻雀競技団体「雀鬼会」に参加。しかし、のちに将棋のプロである四段昇段を目指す為に破門されることになります。

雀豪として広く認知されたのは2019年に行われた麻雀最強位戦。著名人代表として参加された鈴木九段は見事優勝を飾り最強位を獲得。将棋と麻雀を通じて「初タイトル獲得」と呼ばれたこともありました。

今年の5月に競技麻雀のプロ団体の1つである日本プロ麻雀連盟に入会。6月に行われた麻雀プロリーグ戦「Mリーグ」の2023-24シーズンのドラフト会議にて、今年から参入した「BEAST Japanext」に1巡目の3番目にて指名されました。

「Mリーガー」としての実戦デビューは9月。本書では「ほろ苦いデビュー戦」と語られています。なお、詳細な成績については所属されている「BEAST Japanext」の公式サイトのリンクを掲載いたしますのでこちらからご確認ください。

 

 

ちなみに「Mリーグ」でのキャッチフレーズは「二刀流ブルドーザー」。プロ棋士とプロ雀士の二刀流は史上初のことでした(その後、井出隼平五段もプロ雀士との二刀流棋士となります)。なお、所属する日本プロ麻雀連盟では五段。鳳凰戦と呼ばれるプロリーグではB2リーグに在籍しています。詳しい成績は、こちらも日本プロ麻雀連盟の公式サイトのリンクを掲載いたしますのでこちらからご確認ください。

 

 

 
 

ではここからは、書籍の内容に入ります。本書は鈴木九段の生い立ちから二刀流棋士としての生活、さらにはトップ麻雀プロとの対談や脳科学者の分析などから、鈴木九段が挑戦する、将棋と麻雀の二刀流の可能性を紐解く内容となっています。7章+対談と特別コラムの構成となっています。それでは掲載順に見ていきます。

 

まえがき「三人の父」

鈴木九段の現在を築いた3人の「父」をご紹介。

 

Chapter1「父と将棋

鈴木九段の幼少期から奨励会時代のエピソードを中心に、将棋中心の内容です。将棋との出会いや向き合い方。師匠となった故・大内延介九段との出会いに至るまで、棋士・鈴木大介の原点に迫る内容です。

 

Chapter2「麻雀の師

鈴木九段が麻雀と出会ったきっかけや、雀鬼会に参加した時代、雀鬼会の桜井章一会長にまつわるエピソードが中心の内容です。Mリーガーとしての鈴木大介の基礎を作った麻雀のスタイル、心構えを説く内容です。

 

Chapter3「羽生善治と藤井聡太

再び将棋の話に戻り、四段昇段から日本将棋連盟の理事を務めていた時期に至るまで、これまでの棋士人生を振り返る内容です。タイトルの通り、羽生九段と藤井竜王名人の話題も登場。2人の「天才像」についても書かれています。

 

Chapter4「オールドルーキーの決意

麻雀プロを意識したきっかけや二刀流を決意したときなどが書かれている内容です。将棋棋士と麻雀の関係や二刀流の理由、現実にどう向き合うかなどが書かれています。

 

Chapter5「Mリーグ

Mリーグの話題を中心に、鈴木九段の「雀風」やドラフト指名を受けた時の心境、デビュー戦についてなどが書かれています。私みたいな麻雀の素人でも、Mリーグの雰囲気が分かる内容です。

 

Chapter6「二刀流の未来

鈴木九段のご家族にまつわるお話から、前述の永瀬九段との研究に至るまで再び将棋の内容が中心です。豪快なイメージのある鈴木九段ですが、その影で辛く苦しい戦いを強いられた時期もありました。ここでは、その時期の心境も赤裸々に書かれています。

 

Chapter7「『勝負の現場』を大公開

将棋と麻雀の2つの勝負の世界に生きる鈴木九段。ここでは、それぞれの特徴や共通項などを鈴木九段の視点で解説されています。将棋では、将棋めしや扇子、オーラを感じた棋士など。麻雀では、数牌のイメージなどが書かれています。共通の項目は「読み」についてや戦うスタイルなどが書かれています。

 

スペシャル対談「攻めの流儀

鈴木九段と日本プロ麻雀連盟に所属し、MリーグではKONAMI麻雀格闘倶楽部に所属されている佐々木寿人プロによる対談です。お互いの印象から始まり、雀鬼会の桜井会長や対局前の気持ちの作り方、お2人の麻雀スタイルである「攻める」とは?に至るまで、Mリーガーとしての矜持を垣間見る内容となっています。

 

特別寄稿「脳科学者・篠原菊紀先生が『二刀流脳』に迫る!

メディア出演や、数多くの脳トレの本を出されるなど、脳科学の第一人者として知られる公立諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授による、鈴木九段の「二刀流」の可能性を見ていく内容です。将棋と麻雀で脳機能に違いはあるのか?また、二刀流の相乗効果は?脳を鍛えるためのルーティンなどもここで詳しく知ることができます。

 

全ての項目を終えた後は、あとがきとして鈴木九段が「勝負の世界」に生きるとはどういうことかを書かれています。

 

 

以上、本書の内容を簡単ながら触れていきました。ここからは、実際に読んでみた感想を短歌にしてみたいと思います。

 

二刀流

たとえ世評が

けなしても

己の道を

ブレなく進め

 

自分の挑戦を他人に批判されたという方はいらっしゃるかと思います。二刀流と言えば、最近何かと話題のアメリカメジャーリーガー・大谷翔平選手も二刀流に挑戦すると表明された時は多方面から批判や酷評を受けたと記憶しています。私も大谷選手が北海道日本ハムファイターズに入団された際の経緯をおぼろげながらに覚えていますが、大谷選手のメジャー志向を球団がなんとか説得して入団させたときは様々な意見がネットニュースで飛び交いました。

人の目標や夢を批判や酷評される方は、多かれ少なかれ存在するかと思います。それでもブレずに自分を信じて、研鑽を積み重ねて夢を実現された方には、かつて批判していた人も手のひらを返したかのように賛辞を贈ることもあります。

 

将棋界でも例外ではありません。将棋界でも「二刀流」の流れが来ています。前述しましたが、井出五段も将棋と麻雀の二刀流棋士として活動中。「ふなえもん」の愛称で親しまれる船江恒平六段は、公認会計士の資格を持ち、非常勤職員としてとある有限会社の監査の仕事も担当されています。また、ゴキゲン中飛車対策の「超速」を編み出した星野良生五段は、棋士活動と並行して将棋ゲームで有名な株式会社シルバースタージャパンに会社員として勤務。同社主催のリアルタイムバトル将棋「プロe棋士決定戦」では、プロe棋士四段に認定されました。

女流棋士でも、伊奈川愛菓女流二段は現役の女流棋士でありながらお医者様としても活動。また、先日のNHK将棋フォーカスでも取り上げられましたが森本理子女流2級も女流棋士の傍ら、お医者様を目指して勉学に励んでおられます。さらに凄いのが香川愛生女流四段。この方は女流タイトルホルダーの実績はもちろん、Youtuberに声優(かつてニコ生をご覧になっていた方はご存知かもしれないですね)、メディア出演も多数とマルチな才能を発揮されて将棋普及に貢献されています。

 

こうしてみると、将棋界に「二刀流」として活動されている棋士や女流棋士は意外と多いです。しかし、そういった方々に批判的な意見があるのも事実

「本業で結果が残せないから逃げている」

「対局で勝ってこその普及」

「中途半端に終わる」

などなど…。本書でも触れられていますが、鈴木九段もこのような世間からの批判的な意見を受けたこともあります。

 

しかし、考えてみれば日本にはこんなことわざがあります。

一芸に秀でる者は多芸に通ず

正確な意味は何か1つのことに秀でていたら、いろんなことができるようになるということですが、考えてみれば将棋界には多芸に通じていらっしゃる方が多いです。

有名なのは羽生九段。チェスプレーヤーとしても国内最強クラスの実力者として知られています。青嶋未来六段もチェスプレーヤーとして有名で、ご自身のブログでもチェスの局面を解説されることもあります。

バックギャモンが強い棋士もいると聞きます。有名なのが森内俊之九段で、2022年に行われた第50回「BACKGAMMON FESTIVAL」にて優勝を果たしています。また、片上大輔七段は国内のバックギャモンの大会で王位や名人のタイトルを獲得。やはり将棋のプロ棋士は他のゲームも強いという方が多いですね。

 

 

もしかしたら私もそうなのかもしれませんが、人の挑戦や目標を批判される方は自分の可能性を何らかの理由で閉ざしているから他人のことも同じ目で見てしまうのかなと思うのです。また、「前例」があったから今回もという考えになってしまう傾向もあるのかなというのは感じます。過去にあの人も同じ挑戦をして失敗したから、この人も失敗するのではないかという思考です。

私は人間の心理や思考を研究しているわけではありません。しかし、過去の人生を振り返ると「前例」にとらわれすぎて踏み込むことができなかったり、人の言葉でチャレンジをためらったということが何度もありました。

 

将棋でも例外ではありません。私は今は自称「変則の居飛車党」。右玉を軸とする王道から思いっきり反れた将棋に活路を見出す、奇人変人のタイプかもしれません。そのタイプが確立した背景には振り飛車への「拒絶」がありました。学生時代、私は振り飛車を指すことに極端に抵抗。周囲の「転向したらどうか」という声にも耳を貸さず、「居飛車一刀流で勝つ」という恰好を付けた言い訳で振り飛車を指すことから逃げていました。これは過去に振り飛車で勝てなくなった自分がいたという「前例」があり、振り飛車を指すことで自分が弱くなっていくことが怖くなって、あえて居飛車党を強がって選択していたのかもしれません。

 

人の言葉でチャレンジをためらったということは何度もあります。私は将棋好きながら(?)、競馬や麻雀をしたことがありません。ギャンブル自体の経験は宝くじが少々とボートレースを1回だけという経験がありますが、のめりこんだということはありません。その理由は、私の祖母の言葉でした。祖母はことあるごとに「ギャンブルは絶対にするな」と私に言い聞かせていました。ギャンブルが原因で人生を破滅させた人を何度も見てきたからがその理由です。それゆえ、学生時代に将棋サークル内で流行った麻雀に加わることはありませんでした。祖母の言葉を信じ続けていたゆえに、自分の中で遊ぶことで身を滅ぼすことは許されないという思い込みが働いた形です。

そんな私がなぜボートレースを経験したのかと言いますと、大学を卒業後に新卒採用で入社した会社の場所にありました。告げられた勤務先は山口県下関市。ここはボートレースの会場があります。諸事情で新卒の会社を1カ月で辞めた私は、人生をどうするか悩んでいました。そんな時期に下関の市街地を歩いていたら、下関駅からボートレース会場へ向かうバスがあり、気づいたらバスに乗ってボートレース下関へ。そのままレースの予想に挑戦したというわけです。今も昔もボートレースの知識は素人。3連単の予想で稼ぐのが当たり前とされているらしいのですが、当時はよく理解できないまま単勝や複勝狙いで舟券を購入。1号艇がかなりの高確率で1着になるボートレースでは考えられない賭け方だったなと今考えたらとても恥ずかしいです。それ以降、ボートレースは純粋なスポーツと考えて中継を視聴するようになりました。なお、競馬や競輪も「ギャンブル」ではなく「スポーツ」として考えるようになっています。私は将棋好きながら、勝負事には向いてないのかもしれません。

 

 

さて、私の話はここまでにして本書に内容を戻します。本書を読んでみると、鈴木九段は「勝負の世界」で生きていくために、研鑽や努力、準備を怠らず、目の前の対局に全力をぶつけるという姿を感じました。正々堂々と戦いたいという思いは、将棋に限らず様々な競技で共通かと思います。しかし、目先の勝利に意識が働き、内容を捨てて勝ちにこだわるということもあるかと思います。鈴木九段の本書の言葉にはこんな言葉が強調されていました。

結局最後は自分が納得できる戦い方ができたかどうか

そこには常に正々堂々と戦い、全力を出し切ったかどうか自問自答している鈴木九段の二刀流への矜持を感じます。簡単に「二刀流」が叫ばれているこのご時世、鈴木九段のように目標に向かって日々精進していらっしゃる方がどれだけいらっしゃるのか。私も本書を読んで、改めて道を「極める」とはどういうことかを考えさせられました。

 

さて、本書は鈴木九段のこれまでとこれからを書いてある自伝的要素はもちろんのこと、将棋界のしくみやしきたり、麻雀のスタイルや用語なども学べます。重要なところは字体を変えて強調し、将棋と麻雀の用語については補足的に解説されています。将棋の知識が弱いという方や、私のように麻雀の世界をよく理解していないという方でもフラットに読める構成や内容となっています。私も本書をきっかけにMリーグを視聴してみようかなという機運が上がりました。また、本書をきっかけに将棋に興味を持ってくださるといいなと思います。頭脳戦の二刀流に挑むトップ棋士の誇りを感じる一冊です。ぜひ一度、フラットな気持ちでお読みいただくことをおススメします。

 

 

この本を読んで将棋に興味を持った、将棋が好きになったというお声をいただければ、これほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで、将棋に興味を持つ、将棋が好きになることを祈念いたします。そして、今後の鈴木九段の「二刀流」の大活躍にも期待しております。

さて、本日をもちまして本年の将棋書籍の紹介は終了とさせていただきます。一時、中断していた時期はありましたが今年も様々な将棋本を紹介してまいりました。多くのいいね!をいただき、本当にありがとうございました。今後も無理ないペースで続けてまいりたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。次回の書籍紹介は、来年の1/21(日)を予定しております。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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