書籍紹介を再開します:「永世乙女の戦い方」第9巻 | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんにちは。最近は銀河戦の結果が追い付けない雁木師でございます。さて、当ブログでは半年ほど休んでいた書籍紹介を本日より再開することにいたしました。予定では毎月第3日曜日に書籍をご紹介できればと思います。どうかよろしくお願いいたします。

さて、再開第1号となる書籍紹介はこちらのコミックでございます。

 

 

 

 

永世乙女の戦い方⑨」

 

でございます。

 

原作はくずしろさん。監修は香川愛生(かがわ・まなお)女流四段です。ビッグコミックスペリオールにて2019年10号より連載開始。今回紹介する第9巻は6月に発売されました。

お二人のプロフィールについては、くずしろさんについてはこちらから。

 

香川女流四段についてはこちらからご確認ください。

なお、香川女流四段は今期の女流王将戦にて挑戦者決定戦に進出。決定戦では渡部愛女流三段に勝ち、西山朋佳女流王将への挑戦を決めました。香川女流四段にとっては7年ぶりのタイトル挑戦となります。

 

 

前回のコミックのおさらいをしたいという方は下記リブログ記事からご確認いただけます。

ではコミックの内容に入ります。このコミックのストーリーは現役女子高生にして女流初段の早乙女香(さおとめ・こう)が女流棋界の絶対王者天野香織(あまの・かおり)とのタイトル戦での対局を目指して奮闘する日々を描く内容です。

第9巻は全面的に香織にスポットライトがあたる構成です。前半は第8巻の終盤から引き続き、香織と夏木小百合(なつき・さゆり)による女流王将戦三番勝負第1局の対局です。戦いは香織が猛攻を仕掛け、小百合はしのいで反撃に転じます。戦いの中で会話する二人。その中で小百合はまだ戦えると確信しますが…。果たしてその戦いの結末は?

 

後半は、香織の次の戦いに向けての物語です。圧倒的強さで女流棋界を牽引する香織ですが、そんな彼女を快く思っていない人物が登場します。その人物はなんと、香織の母親。彼女は香織の銀河戦の対局相手である津雲嵐(つくも・らん)に「プレゼント」を渡します。何としてでも香織に将棋を辞めさせたい母。その理由は如何に?

そしていよいよ香織と津雲の対局。香はこの対局に師匠の勧めで聞き手として対局を見守ります。戦型は香がびっくりするほど意表の展開に。果たして対局の行方は?

 

また、今回も紙媒体のコミックでは表紙のカバーを外すと、詰将棋が出てきます。腕試しをしたい方はぜひ挑戦してみてください。

 

ここまでが第9巻の内容となります。ここからは、実際に読んでみた感想を短歌にしてみたいと思います。

 

盤上に

一途に懸ける

思いとも

娘の栄華も

母に響かず

 

 

詳しく説明しますと、香織の母親は香織が将棋に関する報告をするたびに

いつ将棋辞めるの?

と聞いてくる描写が出てきます。最近は藤井聡太ブームの影響もあり、親御さんの将棋熱がお子さん以上に強いという方もSNSなどで見かけます。その中において、本書の香織の母親の娘に対する言動はパパ将、ママ将など呼ばれる将棋熱の高い親御さん方から見ればやや異質に見えるかもしれません。

将棋に人生を賭ける人間は、私から見れば尊敬と羨望の感情があります。しかし、将棋を「ゲーム」と捉えている人間からすれば、たかが「ゲーム」に人生を賭けることがいかに無駄なのかという考えを持つこともあるでしょう。香織の母親からは将棋に対する嫌悪感を感じる描写もあります。

いったい彼女は何の目的で香織の将棋を辞めさせようとしているのか。ぜひ、注目してお読みいただければと思います。

 

その一方で今回は存在感が若干弱くなっている香ですが、その日常はコミカルに描かれています。学校生活は対局などで休みがちで卒業も危ぶまれている状況。それでもなお将棋に一途な姿は、ヒロインの王道とも言えるでしょう。今回は聞き手を務めることは前述しましたが、なんとこれが聞き手デビューということで、所作を理解しないで進行する姿は初々しさを感じます。

 

全体を読んでみた感想は、コミカルシリアスの塩梅が絶妙だとは旧ブログ時代から述べてきましたが、今回もさすがだなと感じます。対局の真剣勝負の描写は「決闘」を表願されている感覚です。その一方で、日常生活のネタで多い、漫才におけるボケとツッコミの感覚の描写も上手だなということを感じます。

 

さて、コミックの話はいったん置きまして、ここからは現実の女流棋界についてお話ししたいと思います。女流棋界のタイトルは8つ(白玲、清麗、女王、女流王座、女流名人、女流王位、女流王将、倉敷藤花)。現在は里見香奈(さとみ・かな)女流五冠と西山朋佳(にしやま・ともか)女流三冠で分け合っている二強時代が続いています。以前はこのお二人に加えて、加藤桃子(かとう・ももこ)女流四段と伊藤沙恵(いとう・さえ)女流四段との「女流四強」時代とも呼ばれていました。しかしタイトル戦で里見ー西山戦が続いた影響で、里見女流五冠と西山女流三冠の実力が突出しているのが現状と言われています。

 

では次に、今期の女流タイトル戦の結果及び進行を見ていきます。

春の女流タイトル戦はマイナビ女子オープン。西山女王に甲斐智美(かい・ともみ)女流五段が挑戦。甲斐女流五段はこのシリーズの前に引退を表明されるという、異例の状況で幕を開けた戦いは3勝0敗で西山女王が制し、棋戦6連覇を達成されました。

女流王位戦は里見女流王位に伊藤女流四段が挑戦。開幕局は伊藤女流四段が制すも、その後は里見女流王位が3連勝で制し、女流王位戦5連覇を果たしました。

清麗戦は里見清麗に西山女流三冠が挑戦。3勝1敗で里見清麗に軍配が上がり防衛を果たしました。

白玲戦はこちらも里見白玲に西山女流三冠が挑戦。昨日第3局が行われが西山女流三冠が勝ち、対戦成績を2勝1敗としました。第4局は9/30(土)に行われます。

女流王将戦は前述の通り、西山女流王将に香川女流四段が挑戦。女流王将を2期獲得の実績がある香川女流四段が、西山女流王将にどう対抗されるかが注目です。三番勝負の第1局は10/7(土)に開催されます。

女流王座戦は里見女流王座に加藤桃子女流四段が挑戦。挑戦者決定戦では西山女流三冠に勝って、挑戦を決めた加藤桃子女流四段。7月に関西に移籍されてからは初めてのタイトル挑戦となります。第1局は10/25(水)に開幕です。

倉敷藤花戦は9/13(水)に挑戦者決定トーナメントの準決勝が行われ、挑戦者決定戦は西山女流三冠と加藤結李愛(かとう・ゆりあ)女流初段の顔合わせとなりました。西山女流三冠が勝てば2年連続の倉敷藤花挑戦。加藤結李愛女流初段が勝てば初めてのタイトル挑戦となります。果たして里見倉敷藤花に挑戦するのはどちらでしょうか。

女流名人戦は現在西山女流名人への挑戦者を決める女流名人リーグが進行中です。里見女流五冠が4勝1敗で暫定首位、鈴木環那(すずき・かんな)女流三段と内山あや(うちやま・あや)女流初段が4勝2敗で暫定の2位グループで追う展開です。西山女流名人への挑戦権は誰が手にするのか注目です。

 

以上がここまでの女流棋戦の結果と進行状況です。こうしてみると、今期も里見女流五冠と西山女流三冠の強さが際立っているのがうかがえます。裏を返せば、このお二人からタイトルを奪うのがいかに至難の業かというのがよくわかります。

もちろん、里見女流五冠も西山女流三冠も一発勝負のトーナメントやリーグ戦で負けることはあります。最近では里見女流五冠や西山女流三冠に勝った若手女流棋士は「金星」と表現されて期待されることもあります(失礼な表現という意見もありますが…)。ここからは、今期、里見女流五冠と西山女流三冠に勝った女流棋士を見ていきたいと思います。なお、ここでの成績は昨日(9/16)時点での成績です。

まずは、里見女流五冠から。今期の里見女流五冠の女流棋戦での成績は15勝6敗。6敗のうち、敗れた相手を見ていくと、西山女流三冠に3敗(清麗戦五番勝負第2局、白玲戦七番勝負第2局、第3局)。伊藤女流四段に1敗(女流王位戦第4局)、小高佐季子(おだか・さきこ)女流四段に1敗(女流王将戦本戦トーナメント2回戦)、内山女流初段に1敗(女流名人リーグ5回戦)となっています。中でも注目したいのは、小高女流初段内山女流初段でしょうか。

小高女流初段は今期の女流棋戦の成績は8勝5敗。今期の女流順位戦はC級で5勝3敗の成績で順位の関係でB級への昇級はなりませんでした。前述の女流王将戦では里見女流五冠に勝ってベスト4入りを果たしました。得意戦法は中飛車で、踏み込みの良さが際立ちます。

里見女流五冠との対局では相手のゴキゲン中飛車に対し、居飛車穴熊で対抗。第一人者相手に一歩も引かない攻め合いを展開。一瞬のスキを突いて、里見陣を崩して137手で勝利を収めました。

最近ではNHK杯の棋譜読み上げや、ABEMAの聞き手としても活躍されている小高女流初段。今後の飛躍が期待される女流棋士の1人です。

 

内山女流初段は今期の女流棋戦の成績は14勝8敗。対局数は全女流棋士の中で第3位タイ。勝ち数は第4位。前期も18勝9敗と勝ち越すなど、近年急成長を遂げている女流棋士と言えるでしょう。今期の女流順位戦はD級で6勝2敗の成績を収め、来期のC級昇級を決めています。前述の女流名人戦は、今期が初めてのリーグ入り。強豪がひしめくリーグで4勝2敗とここまで大健闘ともいえる成績を上げています。棋風は居飛車党で、矢倉を得意とするタイプです。

残念ながら、前述の女流名人リーグでの里見女流五冠との対局の棋譜はデータがありませんでしたが、第一人者に勝ったことは大きな自信になることでしょう。初めての女流団体戦となった第2回女流ABEMAトーナメントでは、実力派の渡部女流三段に指名された内山女流初段。大舞台での活躍が待たれます。

以上今期里見女流五冠に勝った女流棋士の中から、小高女流初段と内山女流初段に注目してみましたが、第一人者に勝ったことを自信にして大きく飛躍してほしい若手の2人です。

 

続いて、西山女流三冠の今期の成績を見ていきます。今期の西山女流三冠の女流棋戦の成績は23勝5敗。全女流棋士の対局数、勝ち数、勝率の部門で第1位の記録です。敗れた5敗のうち、里見女流五冠に4敗(白玲戦七番勝負で1敗。清麗戦五番勝負で3敗)、加藤桃子女流四段に1敗(女流王座戦挑戦者決定戦)です。里見女流五冠とのタイトル戦以外では、今期は1敗しかしていないことを考えるとやはり群を抜いた強さと言えます。ここでは加藤桃子女流四段に注目していきたいと思います。

加藤桃子女流四段の今期の女流棋戦の成績は15勝7敗。対局数は全女流棋士の中で3位タイ。勝ち数は2位タイの成績です。今期の女流順位戦ではA級で6勝3敗の成績で白玲挑戦を逃しました。前述の女流王座戦で挑戦者になる一方で、清麗戦で挑戦者決定戦に進出も西山女流三冠に敗れて挑戦ならず。女流王将戦では渡部女流三段に敗れて本戦ベスト4。女流名人リーグはここまで3勝2敗の成績です。

今期もトーナメント、リーグ戦とも安定した成績を残される加藤桃子女流四段。奨励会時代から女流タイトル戦を戦いタイトル獲得は通算9期。NHK杯本戦でも1勝をあげた実績もありますが、今期は女流王座戦が初めてのタイトル挑戦。実力者と評されても、里見・西山の二強に対抗するのが難しいかを物語っています。居飛車党で、相掛かりを得意とするタイプです。

前述の女流王座戦挑戦者決定戦では、先手の加藤桃子女流四段が居飛車穴熊、後手の西山女流三冠が三間飛車穴熊という相穴熊の展開。金を前に繰り出し、角損もいとわずに踏み込む積極的な指し回しが光りました。最後は挟撃態勢を築いて相手の反撃をしのぎ、133手で西山女流三冠を投了に追い込みました。

女流王座戦は2年連続で、里見女流王座に挑戦。奪取が実現すれば女流棋界に大きな動きとなるでしょうか。

 

 

ここまで女流棋界の現在を見てきました。やはり棋士にも勝てる可能性の高い女流二強の実力が群を抜いていることは間違いありません。しかし、一瞬のワンチャンスでその女流二強に勝つことで復活や大きな飛躍を遂げる可能性もあります。今後の女流棋界にも注目したいところです。

 

 

さて、コミックの話に戻ります。本書は、女流棋士を知るうえでとても有益なコミックと言えます。女流棋士や女流棋界に興味のある方、女流棋士を目指している方(その親御さんも含めて)はぜひ読んでいただきたい内容であると思います。今月には3名の女流棋士が誕生し、来年には女流棋士制度誕生から50年を迎える女流棋界。里見・西山時代の二強時代は続くのか。それとも二強に割って入る実力派の復活はあるか。はたまたニューヒロインの誕生なるか。様々な期待をこめながら女流棋戦を楽しみに見守りたいと思います。

 

このコミックを読んで将棋に興味を持った、将棋が好きになったというお声をいただければこれほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋に興味を持つ、将棋が好きになることを祈念いたします。また、香川女流四段の女流王将戦三番勝負でのご活躍を期待しています。次回の書籍紹介は10/15(日)を予定しています

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 
 

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