新時代の相掛かりを学ぶ | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日は書籍をご紹介します。今回は、「相掛かり」に関する書籍をご紹介します。

相掛かりは古くから、「力戦」と呼ばれる戦い方が主流とされてきました。自由度が高く、手の作り方が難しいのがその理由です。最近はAIやソフトによって従来の手順が見直され、新しい指し方が注目されています。今回は「新型」と呼ばれる相掛かりに関する書籍です。

 

「マイナビ将棋BOOKS

緩急自在!

新型相掛かりの戦い方

をご紹介します。

著者は佐々木大地五段。マイナビ出版より8月の発売された商品です。ここで著者の佐々木大地五段をご紹介します。佐々木大地五段は2016年四段昇段。奨励会三段リーグで2度次点を獲得し、フリークラス編入という形でのプロデビューでした。デビューから10ヵ月半で順位戦参加資格を獲得。これは史上最速でのフリークラス突破の記録です。

主な実績は、王位戦では第59期から3期連続で挑戦者決定リーグ入り。棋王戦では昨年挑戦者決定戦に進出。第48期新人王戦で準優勝です。現在は竜王戦は6組。先日行われた昇級者決定Aブロック決勝戦で池永天志四段に敗れて惜しくも5組昇級を逃しました。順位戦はC級2組に在籍されており4勝1敗の成績で折り返しています(11/6時点)。

 

師匠は同じ長崎県出身の深浦康市九段。お二人の強い師弟の絆は「師弟~棋士たち魂の伝承~」に詳しく書かれています。

 

 

書籍の紹介の前に、相掛かりの「新型」と「旧型」の違いについて見ていきたいと思います。まずは問題の局面から見ていきます。

先月の私の将棋倶楽部24の実戦からの局面です。相掛かりに進むなら、初形から

☗2六歩 ☖8四歩

☗2五歩 ☖8五歩

☗7八金 ☖3二金

と進んで上図の局面です。もし相掛かりを嫌うなら、5手目☗7八金に代えて☗7六歩と角道を開けて角換わりに誘導する順や、初手に☗7六歩と角道を開けて相手の出方を窺う作戦などがあります。

先に従来の指し方とされる「旧型」を見ていきます。「旧型」の場合、上図から

☗2四歩 ☖同歩

☗同飛 ☖2三歩

☗2六飛

と進行するのが一例。

☗2六飛では☗2八飛もありますが、最近の私の実戦では☗2六飛が多いです。その理由としては自分だけ飛車先の歩を交換して、先手の利を生かしたいというのが考えられます。その後の展開はある意味「自由」です。今回掲載した局面の実戦では、上図からお互いに早繰り銀を目指す形となり派手な応酬の末、後手番の私が勝ちました。右辺の銀や桂馬の活用法、玉の位置などや囲いなどで展開や構想は変化していきます。

では、今回書籍のタイトルとなる「新型」はどんな感じかと言いますと…問題の局面から

☗3八銀 ☖7二銀

☗5八玉

が進行の一例です。なお、これは前出の問題の局面から指し継いでみた局面で、私の実際の実戦で出た局面ではありません。

☗5八玉では☗6八玉、☗9六歩なども有力な手筋とも言われています。本書の場合は☗5八玉を「基本」、☗9六歩は「最新」と紹介されています。なぜいきなり飛車先交換をしなくなったのか、私は変遷についてはあまり詳しくはありません。変遷については将棋情報局が中座真七段の著書「相掛かりの新常識」のご紹介をされたページにてその一部が書かれています。興味のある方は前述のリンクをチェックしてみてください。また、「相掛かりの新常識」の書籍が買いたくなったという方には下記にてお買い求めいただけるサイト(Kindle版)に進むリンクを掲載いたします。

 

私の実戦では「新型」と「旧型」のどちらが多いかと言われると、「旧型」を見ることが多いです。私は相掛かりは後手番でやることが多く、相手の作戦を受けて立つというスタイルですが「新型」はあまり見た記憶がありません。将棋の格言に「飛車先交換、三つの得あり」というものがあります。「旧型」の進行はその格言に沿った手順とも言えるので、自然な指し回しに見えるということでしょうか。

 

 

それでは書籍の紹介に入ります。本書は前述の「新型」の相掛かりに特化した内容です。「☗5八玉型」に2章、「☗9六歩型」に1章、実戦解説に1章の全4章の構成です。順に見ていきます。

第1章「5八玉型VS4二玉型」…先手が☗5八玉型に対し、後手が☖4二玉型で対抗した場合の解説です。後手の飛車先交換に対して☗8七歩と受けたとき、後手がどこに飛車を引くかで戦術が変化していきます。本章では、☖8五飛、☖8二飛、☖8四飛の3つのパターンについてそれぞれ1テーマずつ解説されています。☖8五飛の変化に最もページが割かれています。

第2章「5八玉型VS3つの作戦」…先手の☗5八玉型に対して、後手が早めに飛車先を交換した場合、居玉のまま早繰り銀で攻め込んだ場合、☖5二玉として先後同型にした場合の3つの作戦についてそれぞれ1テーマずつの解説です。早めの飛車先交換のテーマでは、後手が浮き飛車にした場合と引き飛車にした場合の戦術の変化。先後同型策では、最新とされる☖9四歩の変化も書かれています。

第3章「最新の☗9六歩」…「新型」相掛かりの定跡とされる9手目☗5八玉に代えて「最新」とされる☗9六歩と端歩を突いた場合にどうなるかの解説です。後手が☖1四歩と端歩をついて追随するパターンと☖5二玉と上がって早い戦いに備えるパターンの2テーマが解説されています。前者は先手良しの結果図、後者は後手が悪くない結果図が多いです。

第4章「実戦解説編」…佐々木大地五段の新型相掛かりに関する自戦譜10局の解説です。10局全て佐々木大地五段が先手を持って指しており、全て勝った将棋が掲載されています。

また、各章の締めくくりには「コラム」として三段リーグやライバル、故郷の対馬についてなどが書かれています。

 

特徴としては、結果図の評価が先手目線での評価となっています。相掛かりは先手の利が生きる戦法とされています。それゆえか、全体としては先手有利の結果図が多いです。もちろん、互角や振りの結果図もありますが数としては先手有利が多いです。

変化を読んでいくと、大駒をバッサリ切ってしまう強手や派手な手順が多いです。今回紹介している☗5八玉型が予想以上の堅陣で、先手陣に飛車角の打ち込みのスキがないゆえに成立する手順であることが分かります。ただし、飛車角を切って失敗した事例も紹介されています。

第4章の実戦解説編は10局全て佐々木大地五段が勝った将棋と前述しましたが、全てが理想的な勝ち方だったわけではありません。各章の復習的な感覚で読んでいくとよいかもしれません。章の前半は☗5八玉型の自戦譜、後半は☗9六歩型の自戦譜です。

 

 

実際に盤に並べてみた感想はというと…。実戦心理として「飛車先の歩は交換するもの」という教えが染みついているのでついつい飛車先の歩を交換したくなるものですが、あえて保留することで可能性が広がったという感覚です。理論としては飛車先交換は約束されているから、いきなり交換せずに模様をよくしていくのが効率的ということでしょうか。

「横歩取り」と呼ばれる横歩をかすめ取る攻防やあえて取らせる手順もあって面白いと思います。歩を取らせて模様をよくしていく「手得」の思考も学べます。

新型の相掛かりをを指しこなせるかといいますとやや難しいのが私の感覚です。そもそも相掛かりが成立するには、お互いが一直線に飛車先交換を狙うのが基本とされています。お互いの合意が無ければ成立しない戦法であるとも言えます。どういうことかと言いますと、もう一度問題の局面を再掲します。

この局面に至れば相掛かりはほぼ成立と考えてよいです。問題はこの局面に至るまでの過程において、先手の初手☗2六歩に対し、後手が2手目に☖8四歩ではなく☖3四歩と角道を開けた場合は相掛かりに持ち込むのが困難になるというのが私の経験です。

私は過去に横歩取りと見せかけて横歩を取らずに飛車を引いて、相掛かりに持ち込むという手順を採用したこともありましたが、その過程で角交換をされたり飛車を振られこともありました。相掛かりを覚えたり実戦で使う場合は相掛かり単体のみでマスターするのではなく、相掛かりに応じてくれなかった場合の作戦を考える必要もあるというのが個人の見解です。

相掛かりに限らず、相居飛車の将棋はお互いの呼吸が合わないと成立しない戦型が多いです。私はそれゆえ芸域を広げていくスタイルでした。私の将棋の根底は矢倉でしたが、振り返ると角換わり、横歩取り、雁木、右玉と主力戦法が時代背景や風潮と共に変遷していってるような気がします。現在は矢倉を基軸として指していますが、本書との出会いを機に先手で相掛かり狙いもありかなと思っている今日この頃です。

 

話がそれてしまったので本書に戻ります。相掛かりは居飛車党なら避けて通れない戦法です。居飛車党の方はぜひ、本書で最新の相掛かりを学んで実戦で役立ててください。また、観る将の方にも最近の相掛かり事情を知るうえで参考になる1冊です。最近のタイトル戦でも新型の相掛かりをよく見るようになりました。ぜひ、本書で学んで将棋観戦の参考に役立ててください。

 

 

この書籍を読んで将棋が好きになった、将棋の力が強くなったというお声をいただければ、これほど嬉しいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋が好きになる、将棋の力が強くなることを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は11/20(金)を予定しています。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

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