「三間飛車VS左美濃」の歴史を学ぶ | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日は書籍をご紹介します。今回は三間飛車と左美濃の攻防に関する書籍です。

 

「マイナビ将棋BOOKS

プロの実戦に学ぶ

三間飛車VS左美濃

のご紹介です。

 

著者は小倉久史(おぐら・ひさし)七段。マイナビ出版より、6月に発売されました。ここで著者の小倉七段についてご紹介します。

小倉七段は1988年に四段昇段。三段リーグを1期で通過しての四段昇段です。師匠は中原誠十六世名人。第25期新人王戦でベスト4、第44期王位戦でリーグ入りの実績があります。

振り飛車党の棋士として知られ、どの筋にも飛車を振る棋士の一人です。中でも三間飛車での独特の指し回しは自ら「下町流三間飛車」と呼び、書籍も出版されています(下記リンクは昨年復刊された書籍です)。

 

 

現在は竜王戦は6組、順位戦はC級2組で降級点を3回取ったことによるフリークラスのため参加していません。

お弟子さんに、三間飛車をこよなく愛することで知られる山本博志(やまもと・ひろし)四段がいらっしゃいます。小倉七段は、山本博志四段が奨励会三段時代の頃に師弟で「三間飛車新時代」という本を出されました。現役の奨励会員が書籍を出版するのは異例のことです。

 

 

 

では今回紹介する書籍の内容に入ります。本書は三間飛車が左美濃にどう立ち向かってきたかについて、昭和、平成、令和の時代に分けて解説された書籍です。順に見ていきます。

第1章:「昭和の三間飛車対左美濃」…玉が2二(8八)に配置されているオーソドックスな左美濃にどう対抗したかの解説です。三間飛車側は石田流に構える、四枚美濃を構築する、穴熊に囲うなどの対抗策が示されており、6章に分けての解説です。大山康晴十五世名人や大内延介九段など、昭和を代表する振り飛車党の棋士の将棋が実戦編で登場します。

第2章:「平成の三間飛車対左美濃」…玉が2三(8七)に配置された「天守閣美濃」と呼ばれる囲いにどう対抗したのかを中心とした解説です。三間飛車は石田流で対抗するパターン、穴熊に囲うパターン、石田流かつ穴熊に囲うパターンなどで対抗した将棋など、7節に分けての解説です。実戦編では著者の小倉七段はもちろん、お弟子さんの山本博志四段や「コーヤン流」で知られる中田功八段、藤井聡太二冠の師匠である杉本昌隆八段など振り飛車党のスペシャリストの方々の名前が登場します。

第3章:「令和の三間飛車対左美濃」…三間飛車側が初手「☗7八飛」と指し、居飛車が玉を3一(先手だと7九)に配置した左美濃(将棋クエストで「升田美濃」と表記される美濃囲いです)で対抗する将棋を2つの節に分けての解説です。第1節で初手☗7八飛の狙いとその後の攻防の解説。第2節では実戦でプロはどう指してきたかを見ていく形です。

また、各章終了後は「コラム」として昭和、平成、令和のそれぞれの「三間飛車対左美濃」と題して、当時の棋士の思想や、囲いが誕生した背景などが書かれています。各章とも大部分で局面の解説、締めくくりで実戦譜の検証、そしてコラムで歴史背景を学ぶという構造です。

 

特徴としては、局面解説は全て先手三間飛車後手左美濃の構図です。著者の小倉七段が振り飛車党の影響もあってか、結論のほとんどが三間飛車から見て有利と判断されている変化が多いです。実戦編に掲載されている棋譜は全て三間飛車側が勝った将棋が掲載されています。

各節の分岐の変化はそこまで深くはありません。要点を覚えてあとは実戦を積んで感覚を磨くという感じでしょうか。

居飛車側から見ると、タイトルの通り左美濃中心の解説ですが、銀冠や銀冠穴熊に囲った場合の変化も書かれています。攻めた場合と守りを固めた場合の両方の変化を解説されています。

 

 

実際に並べてみた感想はと言いますと…、イメージとしては「歴史書」が強いのかなと思いましたが、実際は持久戦志向の方向けの書籍です。穴熊を解説されているということは堅さ勝ち狙いの将棋を目指すという表れで、実戦編でも大内九段が堅さにものを言わせて勝った将棋が掲載されています。

指し手の流れを見た感じでは、角道を止める「ノーマル三間飛車」が解説の中心ですが、第3章の令和編では角交換振り飛車の変化が書かれています。その一方で序盤から激しい変化になる「早石田」の解説や棋譜が無く、穏やかな将棋の方におススメの書籍かと思います。

振り飛車党の方の参考になる手筋、指し回しが多いのも特徴の一つです。ここにも、著者の小倉七段の棋風、趣向が出ています。

 

 

本書は三間飛車を指してみたい方にはもってこいの一冊とも言えます。特に角道を止めて穏やかに進行したい「ノーマル三間飛車」を指してみたい方にはおススメの一冊かと思います。もちろん、三間飛車を得意とされている方にもおススメの一冊です。特に持久戦志向を目指す方にはぜひ読んで頂きたい一冊です。

一方で、居飛車党の方には変化図は少ないものの居飛車が良くなる変化も少しながら書かれています。左美濃は古くから対抗形で有力な戦法の一つとされてきました。最近は相居飛車の将棋でも採用されるなど、再び復活の機運が出ています。穴熊や急戦にはない戦い方を取り入れるうえでも読んで損はない一冊かと思います。

また、将棋の歴史が好きという方にも昭和、平成、令和の時代の思想、背景が書かれています。温故知新の要素がある本書で三間飛車と左美濃の攻防の歴史を学ぶのも良いかもしれません。幾多の振り飛車党の棋士が三間飛車に新構想を編み出し、左美濃に対抗してきました。本書で職人技が詰まった攻防の歴史を味わい、学び、そして実戦で活用できるようになれば新しい世界が見えてくると思います。

 

 

この本を読んで将棋が好きになった、将棋が強くなったというお声をいただければこれほど嬉しいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋が好きになる、将棋の力が強くなることを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は10/16(金)を予定しています。

 

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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