駒組みの手順と意味・角換わり編-初手~18手 | 2手目△8四歩の世界

2手目△8四歩の世界

将棋倶楽部24で三段の居飛車党が2手目△8四歩から始まる定跡の歴史および現状について簡単にまとめます。観戦時にガイドとして使っていただければ幸いです。記事中では棋士の敬称は省略します。

 角換わりの駒組みは基本的には先後同型は先手が有利であることを前提に、先手が後手に余計な変化を与えないように駒組みをするのが主流となる。

 まずは初手から、先後ともに腰掛け銀を目指す△6四歩(18手目)まで1手1手の意味を解説する。


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初手からの指し手

▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △3二金 ▲7八金 △8五歩
▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △4二銀
▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩 △9四歩 ▲4六歩 △6四歩


・3手目▲2六歩

 3手目▲2六歩は角換わりを目指す意味。▲2六歩△8四歩▲7六歩の出だしと同じ局面となる。先手は飛車先を角で受けることを宣言し、後手にもどのように飛車先を受けるかを問うている意味がある。

 先手としては▲2六歩すら省略して角換わりをしたい場合は、3手目に▲7八金と指す手も考えられるが、▲7六歩△8四歩▲2六歩の出だしが多い。


・4手目△3二金

 ここは△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成……という進行もあるが、最近は△3二金も多い。手の意味としては次の5手目▲7八金と合わせて考える必要があるが、△3二金▲7八金の交換をすることで先手が▲7八金を省略するような変化を減らしている。一方、後手も△3二金を省略して3二玉型に組むような変化がなくなっているが、リスクを減らす方が良いとみている。逆にいえば、後手も3二玉を含みに駒組みをしたければ△3二金に代えて△8五歩▲7七角△3四歩以下を選択すればよい。


・5手目▲7八金

 ▲2五歩と突くのが自然に見えるが、△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀とされると、すぐに▲2四歩と突くことができない。というのも▲2四歩△同歩▲同飛に△3五角があり、以下▲3四飛△5七角成のとき3二金に飛車の横利きがあるため、▲3二飛成とできないため。

 なお、上記手順中▲7七角に代えて▲2四歩は△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛(横歩を取られないようにする)△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8二飛で相掛かりとなるが、通常の形に比べ、2六飛型を強制されている、既に▲7六歩を突いており飛車先を交換されていることからやや損な変化となる。

 飛車先を交換できないのならば、▲2五歩と突かない方が駒組みの幅が広がる。ここは▲7八金とするのが地味ながら重要な一手。

 もちろん、先手が棒銀や早繰り銀など▲2五歩が損にならない変化ならば▲2五歩と突くことは考えられるが、先手は余計な変化をせずに腰掛け銀を目指すのが主流。


・6手目△8五歩

 後手はできれば先手に▲2五歩と突かせたいのだが、1手△7二銀などと待つと、▲2五歩△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△2二銀▲2四歩△同歩▲同飛△3五角▲3四飛△5七角成に飛車の横利きが消えているため、今度こそ▲3二飛成が成立する。

 とはいえ、飛車の横利きを消さないように待つ△9四歩や△1四歩も緩手になるおそれがあるため、指しづらい。そこで▲7八金と形を決めさせたことに満足して△8五歩と指すことが多い。


・8手目△3四歩

 先手の▲2五歩~▲2四歩を受けるために△7七角成~△2二銀(△4二銀)~△3三銀を用意する必要がある。後手から角を換えても、先手に一旦、▲7七角と途中下車させているため、手損にならない。


・9手目▲8八銀

 ▲6八銀でも同じようだが、△4四歩と角道を止められたとき、角の使い方が難しい意味がある。▲8八銀ならば△4四歩には▲2五歩△3三角と形を決めてから、▲5九角~▲7七銀~▲2六角のようにスムーズに角を転換しやすい。


・10手目△7七角成

 当然の一手のようだが、実は△4二銀という手があり、厳密にはこれが最善かもしれない。△4二銀は佐藤(康)新手(▲谷川-△佐藤(康)、1998年5月・名人5)で、仮に先手が▲2五歩なら△3三銀で矢倉になってしまう(それも先手が▲2五歩と突いてしまった形)ので、▲2二角成△同金と先手から交換することとなる。

 先手から角交換すると先手は▲7七角の途中下車に加えて、自分から角交換をしていることとなり2手損なのだが、後手も△3二金~△2二(同)金~△3二金と動くこととなるため、両者2手損で、結果的に手損がないこととなる。

 なぜ、△4二銀が最善手かというと、先手棒銀に強い意味と、右玉にした場合△3二金と戻す手を省略できる可能性があることだが、後手からすれば先手棒銀はやってきて欲しいという意味もあるし、先手がどうしても棒銀をしたければ、5手目▲7八金に代えて▲2五歩と指しておけば後手に変化の余地はない。

 よって、後手はどうしても棒銀を阻止したいわけではなく、また先手側に矢倉を選択させる余地を与えたくないということもあり、△7七角成と指す実戦例の方が多い。


・12手目△4二銀

 先手が飛車先を保留した代わりに後手に得があるとすれば、△4二銀が挙げられる。△7七角成▲同銀のとき、先手の歩が2五まで伸びていると△2二銀の一手(▲2四歩△同歩▲同飛に△3五角を用意するため)。

 先手が飛車先を保留しているため、△4二銀と中央に上がることができ、以下▲2五歩なら△3三銀が間に合う。

 なお、後手が棒銀を指すつもりならば、△2二銀の方がまさる可能性がある。というのも、△8三銀~△8四銀から△7四歩とし、7筋攻めを見せたり、銀を繰り替えたりするのが棒銀の手筋だが、4二銀型だと△7四歩の前に△3三銀の1手が必要となる。もっとも、逆にいえば△2二銀と上がると先手に棒銀を警戒した駒組みをされてしまう可能性もある。


・13手目▲3八銀

 角換わりにおいては5筋の歩を突くと角の打ち込みが増え、不利になりやすいとされている。そこで▲4八銀~▲5七銀と活用する可能性はほとんどないので、▲3八銀で棒銀の含みを残しておく方が得をしている。

 対する後手の14手目△7二銀もほぼ同様の意味である。


・15手目▲9六歩

 ここは▲4六歩も普通だが、▲9六歩が慎重な手。

 角換わりの駒組みの前提となる知識として、先ほどの5筋の歩を突かないようにすることのほか、先後ともに玉はは早繰り銀や棒銀の可能性がなくなってから移動する、および、腰掛け銀>早繰り銀>棒銀の3すくみの法則がある。

 前者は早繰り銀や棒銀をされたときにかえって相手の攻めに近づくのを防ぐためである。居玉は飛車の横利きが通っているときは特に意外と安定している。

 そして、後者は具体的な定跡を見る方が早いが、簡単にいえば腰掛け銀(5六銀)は早繰り銀(6四銀)を▲6六歩~▲6五歩と追い返して仕掛けさせないことが可能だし、早繰り銀(4六銀)は▲5六角との相性が抜群で、棒銀(8四銀)を牽制しながら▲3五歩△同歩▲同銀の攻めが厳しくなる。そして棒銀(2六銀)は腰掛け銀(5四銀)側が十分な駒組みをしていない間に仕掛けることができるといった要領である。

 本譜の▲9六歩は棒銀を牽制した一手で、相手が棒銀で来れば▲3六歩~▲3七銀と早繰り銀で迎え撃とうという意味。


・16手目△9四歩

 もちろん▲9六歩を緩手と見て手抜くことも考えられるが、それでは先に態度を見せてしまうことになるし(玉を移動しづらい+3すくみの法則)、先手がおそろしいのは手詰まりで千日手模様にされることなので▲9六歩~▲9五歩と突きこさせるのは大きな損。

 そこで後手は端を突かれたときは受けることが多い。


・17手目▲4六歩

 さらに慎重に棒銀を警戒するならば、▲3六歩と早繰り銀を見せて後手に△6四歩と突かせるという考えはあるが、▲3六歩には△7四歩から早繰り銀を見せられたときに、のちに▲2四歩△同歩▲2五歩~▲2四歩△同銀▲同飛に△1五角が王手飛車になるなど損となる可能性もあるので損得は微妙なところ。

 本譜▲4六歩は後手に棒銀で来られたときに3すくみの法則からして損のように思え、実際、初期は棒銀で咎めようという指し方も多かったのだが、▲2五歩の一手を保留している分、他の部分に手をかけられること、2六歩型の方が棒銀の攻めを避けて右玉にしやすい意味があることなど、▲谷川-△羽生(1997年5月・名人3)を境に減少していった。加えて後手一手損角換わりが登場し、後手一手損角換わり対先手棒銀は先手が純正角換わりの後手棒銀に比べてかなり手得しているにもかかわらず必ずしも先手優勢になるわけではないことから、後手棒銀の価値も一緒に下がってしまった感はある。


・18手目△6四歩

 後手の棒銀は全く指されなくなったわけではないが、現在は下火となっている。具体的な変化については別ページにて記す。

 棒銀で対抗できないとみれば、腰掛け銀には腰掛け銀で対抗することとなる。