1.矢倉
(1)4六銀・3七桂型
・8五歩・7三角型
▲広瀬-△大平(6日放映・銀河)は▲1五歩△同歩▲3五歩△同歩▲5五歩に△3六歩と突き出す深浦新手(▲羽生-△深浦、2008年8月・王位5)を後手の大平が掘り起こした。以下、▲5四歩△4五歩▲3三桂成△同銀上▲4五銀△8六歩▲同歩△3七歩成▲5八飛△3四金(▲羽生-△深浦は△4四歩)▲同銀△同銀▲2四角△同歩▲3三歩△同玉▲3五歩△同銀▲5三歩成の局面は、先手ペースが確か森内の名著「矢倉の急所」の結論だったと思うが、そこで△6九銀▲4五金に△3四歩が後手の粘り強い受けで実戦は後手勝ち。
・8五歩・4二銀型
▲船江-△宮田(敦)(6日・竜王)は先手が▲1四歩や▲1二歩に代えて▲1三歩と垂らす工夫。△1三同香は▲1二歩に比べて先手に1歩省略を許しているので取ることはできない。▲1三歩からは、△3六歩(▲高見-△石田(直)、2013年3月・新人王で現れた垂らし。ただし、▲1三歩に代えて▲1四歩)▲5五金△同角▲7七角△同角成▲同桂に△2九角が素朴ながら好手で、以下▲1四桂(▲1三歩を生かした一手だが……)△1三玉~△1四玉と先手の手を全て咎めて後手が勝っている。
▲金井-△井上(23日放映・NHK)は銀損定跡。△4四金のタイミングで▲1五歩を突き捨てにいった。これは▲広瀬-△行方(2012年8月・順位)で指された手で、ここで△1五同歩なら▲5四歩△同金と▲佐藤(天)-△森内(2013年5月・竜王)を応用して指そうというのが金井の予定だったという。実戦は▲広瀬-△行方の▲7九飛に代えて▲2五歩△同銀▲1九飛と端を薄くしてから1筋に逃げたのが好手で、先手がペースを握った。
・9五歩型
▲森内-△木村(一)(5日・王座)は▲羽生-△森内(2013年5月・名人5)をベースに先手が▲5七角と引く工夫。これは△3七銀と打たれたときに▲6八飛の逃げ場所を用意した意味で、△3七銀以下、▲6八飛△2六銀成▲1四銀△1六歩▲5五歩△2四歩▲同角△2三金と後手が攻めを呼び込んで戦ったが、先手が細い攻めをうまくつないで攻めきった。
後手としては実戦の順の他、実戦の△2四歩に代えて△5五同歩(△同角は▲5六金から▲6五金と拠点の歩を払いながら飛車を捌く順が気になる)も考えられ、先手は継続手が難しいかもしれない。例えば▲2八飛は△5六歩があるので、▲4八角くらいだろうか。
▲中田(宏)-△島(13日・順位)は宮田新手の▲6五歩に代えて▲2五桂と跳ねる古い形。これは▲谷川-△佐藤(康)(1998年6月・名人7)以降、難解ながら後手十分とされている形だが、中田(宏)は▲中田(宏)-△畠山(鎮)(2010年11月・順位)でも先手を持って勝っており、先手が指せると認識しているのかもしれない。
ただ仮に▲2五桂で先手が良いとしても、郷田が得意とする8五歩・6四角の形で△9五歩(△7三角なら8五歩・7三角型、△4二銀なら8五歩・4二銀型)▲6五歩△7三角▲2五桂△4二銀という手順で宮田新手と同じ局面に持ち込むことができる(▲行方-△郷田、2012年12月・NHK。▲渡辺(明)-△郷田、2013年3月・順位)ため、後手としては▲6五歩に代えて▲2五桂と跳ねる手に自信があれば△9五歩~△7三角の順を、自信がなければ△8五歩~△9五歩の順を選べばいいといえる。
・9六歩型
▲佐藤(天)-△堀口(一)(13日・順位)は先手が▲9六歩と受ける形。▲高橋-△渡辺(明)(2012年1月・順位)をベースにした進行で、▲3五歩に対して、堀口(一)が△4五桂の新手を放ったものの、▲3八飛△2七馬に飛車を見捨てて▲7一角と攻め合われて後手自信のない展開となった。
・4六銀・3七桂拒否
▲藤森-△塚田(泰)は▲4六銀に△4五歩と反発する指し方。▲森内-△佐藤(康)(1993年11月・新人王3)をベースとした▲3七銀△5三銀に▲4六歩△同歩▲同角と直ちに反発する指し方で△4六同角▲同銀△4七角▲3七銀に△5五歩(▲森内-△佐藤(康)は△6九角成)と戦線を拡大していった。
類似形(先手の▲1六歩~▲1五歩の間に後手が△8五歩と△9四歩を指している)として▲佐々木(勇)-△木村(一)(2012年6月・王将)は△4六同角▲同銀△6九角▲3七銀△4七角成~△5五歩から後手が猛攻を仕掛けて勝っており、結構難しい戦いになる(ただ▲佐々木(勇)-△木村(一)は△8五歩が入っているのは大きい)。角をどうせ△5六角成のように切って使うならば△6九角~△4七角成でなく、初めから△4七角と打つのも一法か。
実戦は△5五歩以下、▲6八金寄(△6九角成を防ぐ)△4四銀▲7八角(単に▲4八歩も有力だが△5六角成▲同金△同歩と5筋の歩が伸びてくるのが気になったか)△5二飛と中央を攻められて、のちに7八の角が負担となってしまった。また、このような展開になると後手の歩が8五まで伸びていなくても影響が少ない。
なお、▲4六銀に△4五歩と反発する筋は、▲4六歩△同歩▲同角だけでなく、▲4八飛と回って次に▲4六歩を狙う手もあるので、まだまだ後手として課題が多い。
(2)森下システム
▲井上-△行方(21日・竜王)は4三金右・9五歩型に対して、▲1六歩(様子を見る手で、場合によっては▲3八飛を省略しようとしている)△7三桂▲3八飛△1四歩▲3七銀△5三銀▲4六銀(▲3五歩△同歩▲同角もある。一例として、▲森下-△行方、2012年10月・棋聖)△6四銀▲8六銀△8五桂▲5七角とねじり合いに進行。力戦調で攻め合いも望める形なので後手としてはまずまずか。
▲高野-△塚田(泰)(25日・順位)は7三銀型。△7三銀から△7五歩▲同歩△同角と積極的な指し回し。▲森内-△郷田(2007年4月・名人2)をベースにした進行で、6~7筋の位が大きく一般的には先手十分とされている局面に後手が飛び込んでいった。
実戦は相穴熊になり、お互いに仕掛けづらくなり、先手がジャブを放ったところで、仕掛けの失敗を認めて千日手に。先手としては千日手では不満なので、早めに▲3八飛や▲5八飛と動きを見せたり、△7五歩▲同歩△同銀に▲6四歩と後手の攻めを催促したりするような打開を考えないといけないのかもしれない。
(3)脇システム
▲三浦-△屋敷(10日・順位)は1五歩型。▲3五歩△同歩▲同角に△7五歩▲同歩△8四銀と▲三浦-△GPS将棋(2013年4月・電王)で現れた筋を応用したのが後手工夫。ただし、以下▲6五歩△7五角▲5七銀△9二飛となった局面は、後手の飛車角銀が凝り形で、既に後手が指しにくいというのが感想戦での結論で、修正案として△7五角に代えて△4二角(△7五銀と進出させる手を狙う)、△9二飛に代えて△3七歩成▲同桂△3六歩が示されたようだ。
(4)5筋交換型
▲深浦-△稲葉(15日放映・銀河)は5七銀型の5筋交換型拒否策。後手は雁木に組み、飛車先を交換させた後、△6五歩▲同歩△同飛とする展開となった。△7三桂から△6五歩▲同歩△同桂を狙わなかったのは銀桂交換を甘受して快勝した▲羽生-△渡辺(明)(2012年9月・王座3)の影響もあるかもしれない。
(5)後手急戦
・矢倉中飛車
▲阿久津-△山崎(6日・順位)は阿久津の5手目▲7七銀に対して、後手が矢倉中飛車を採用。銀を3一銀のまま待機して駒組みを進めたのが山崎の工夫で、▲2六歩~▲2五歩に対して、△4四角~△2二銀と、2筋に歩を打たずに頑張る手を用意したことで、先手の2筋の歩交換を牽制した。当然、4四角が狙われることになるが、△6二角~△7三角と転回した。
通常の矢倉中飛車は2二角(3三角)のにらみを生かして攻める戦法だが、山崎流は5筋で1歩持って、角は転回して持久戦と、どちらかといえば、現代の5筋交換型(△5五歩▲同歩△同角~△7三角)と近い発想の戦法のように見える。
▲上村-△村中(11日・順位)は先手の藤井流の出だしに対し、後手が矢倉中飛車で対抗。矢倉中飛車を見たら▲7八金と通常形に戻すのが定跡とされているが、上村は▲7九角から▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲4六角~▲6五歩と積極的に動きを見せていった。これが成立するならば▲7七銀~▲6八銀と銀を引き直して中央に備える手が不要になるというメリットがある。
実戦は角を切って銀を取り、▲6三銀が5二飛型を咎める狙い筋だが、△8二飛~△3一角と冷静に受けられては駒損だけが残り、さすがに後手十分だろう。
・米長流
▲藤森-△西尾(11日・順位)は4四銀型米長流。先手は▲4六銀と銀を繰り出して対抗する作戦(一例として▲久保-△鈴木(大)、2012年6月・順位。先手が▲9六歩と突いた形で先後逆)で、△5五歩▲同歩△6五歩▲同歩△5五銀とシンプルに後手はぶつけていった(▲久保-△鈴木(大)の実戦は△6五同桂)。以下、▲5六歩△8六歩▲同歩△6六歩▲5五歩△6七歩成▲同金の局面をどう見るか。実戦は後手の勝ち。これで後手の米長流が良いならば、先手米長流はますます有力となる。
・6二飛戦法
▲西川(慶)-△千田(11日・順位)は左美濃+6二飛戦法。この組み合わせは中村(修)が得意としていた形のようで、▲高橋-△中村(修)(1998年10月・NHK)、▲南-△中村(修)(1999年10月・順位)など何局か指している。6二飛戦法の本家ともいえる塚田(泰)も▲南-△塚田(泰)(2009年9月・達人決勝)で採用しており、有力な変化球のひとつなのかもしれない。
▲佐藤(慎)-△佐藤(義)(26日・竜王)は、後手が△5五歩▲同歩△同角と5筋を交換する指し方。もらった歩を生かして▲2四歩△同歩▲2五歩と継ぎ歩をする指し方が有力とされているが、研究があると見たか、あまり効果はないと見たか、先手は▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲4六角とした。以下、△2二角から△5四銀~△5五銀と繰り出して、形勢は不明だが、後手も一応主張が通った格好。
(6)その他
・2九飛戦法
▲神崎-△澤田(11日・順位)は2九飛戦法。後手は6四角型のまま△7五歩と仕掛ける変化は先手の待ち受けるところで、前例の▲中村(修)-△宮田(利)(1983年10月・新人王2)で先手十分とされていた。本譜は▲米長-△加藤(一)(1983年5月・十段)をベースに先手は後手のB面攻撃を狙う工夫を見せた。実戦は目標としていた飛車と馬を交換に持ち込まれて先手の作戦は失敗気味だったが、形勢自体は難解。
・郷田流3八飛戦法
▲村田(智)-△石田(直)(11日・順位)は郷田流3八飛戦法。▲3五歩△同歩▲同角△6四角に▲3七銀なら△3六歩▲2八銀で▲谷川-△羽生(1998年7月・順位)の類似形となりそうだったが、村田(智)は▲1八飛と工夫。これは△6四角と出た後手の角を目標にしようという手だが、3五歩早仕掛けと比べて1手損。後手の形を決めさせているという主張はあるが、それほど自信がないと思われる。
・左美濃
▲勝又-△牧野(11日・順位)は後手が左美濃から△6四角と出たところ、先手が▲3七桂と工夫(前例として▲村中-△牧野、2011年8月・順位など)。これは森下システム風の展開に持ち込むことで、後手の早い△6四角を咎めようという狙いだが、▲2五桂と跳ねたときに銀に当たらないため、微妙なところではある。
その後、後手は△7三銀~△8四銀と先攻を目指し、先手は▲1六歩~▲1五歩と伸ばして薄い端を狙うことで△3三銀~△2四銀と受けさせ、▲3七桂の顔を立てるといった展開。
紆余曲折はあったが、結果的に▲達-△木下(晃)(1991年3月・順位)、▲神谷-△東(1993年7月・順位)などで指されている変化に合流。1五歩+4六銀・3七桂型を作って後手の棒銀と攻め合うか(▲達-△木下(晃)の実戦)か、▲8八銀~▲6五歩から棒銀を捌かせないか(▲神谷-△東の実戦)、どちらも考えられ、本譜は後者を選んだ。
2.角換わり
(1)4二金右型待機策
・6八金右型
▲横山-△吉田(11日・順位)は▲6八金右に△1二香▲2五歩△1一玉と後手が新手を披露。前例は△6五歩で短手数で千日手(▲金井-△石田(直)、2013年5月・竜王)だったため、やや意外だが自然な一手ではある。先手陣は△5九角のキズはあるものの6八金型は基本的に堅い形で、4筋で清算して、2筋の守備を弱くする穴熊の弱点をついた攻めが功を奏して、先手が優勢となった。
・2五歩型
▲郷田-△行方(14日・順位)は▲羽生-△渡辺(明)(2010年11月・竜王4)をベースとした進行で、▲4六同角に△4四歩と歩をバックさせて後手十分とされていたところ、△3五歩と工夫。しかし、これは▲3五同角に△4四歩が成立すると見た行方の錯覚(△4四歩以下▲3四歩△同銀▲4四角△3三歩で次に△3六歩が打てると錯覚していた)で、実戦は▲3五同角に△4三歩と打つこととなり、先手がやや得をした。ただ、形勢は難解だったようだ。
・1八香型
▲糸谷-△大平(25日・順位)は1八香型。▲1八香△1二香▲2五桂に後手が△3七角と打ち込んでいった。▲1八香と△1二香の交換がない形では、△3七角には▲3三桂成△同金直(△同桂)に平凡に▲4九飛と引いておいて、以下△2六角成なら▲4七銀(△3三同桂なら▲6一角と打ち込む手も有力)と引いて▲2九飛を狙うくらいで先手良しとされている。おそらく、▲1八香△1二香の交換があるため、▲4九飛には△2八角成や△2六角成~△2七馬で香を狙っていく手が成立すると見ているのだろう。
実戦は△3七角に▲3八飛△2六角成▲4七金△2七馬▲4八飛△3五歩から馬を消すことができるかという争いになった。現実には銀桂交換の駒得は結構大きいので先手悪くないとは思う。
▲丸山-△飯塚(27日・順位)は▲1八香に△9三香。▲阿部(光)-△増田(康)三段(2013年5月・新人王)で現れた新手らしく、手待ちとともに先手が力をためる▲2五歩には△7五歩と仕掛けていこうという狙い。
実戦は▲4五歩△同歩▲同銀△同銀▲同桂△4四銀▲9一角(△9三香を咎めた手)△7二飛▲6四角成から先手が丁寧に受けに回る展開となった。
(2)7三歩型待機策
▲飯塚-△畠山(鎮)(6日・順位)は▲長岡-△佐藤(紳)で現れたいち早く穴熊を目指す変化。
△1二香以下、▲2五歩△1一玉▲4五歩△同歩▲同桂と仕掛けて、▲西尾-△佐藤(紳)(2013年5月・竜王)とほぼ同じ(後手が△4三金右~△4二金引と手損をした関係で先手の右香の位置が違う)。
▲4五同桂△4四銀▲2四歩△同歩▲7一角△5二飛▲5三桂成△同銀▲4五銀の桂損の攻めに△同銀と取ったのが後手の工夫(▲西尾-△佐藤(紳)は△4七歩)で、以下、▲同飛△4三歩▲8五飛に△6三角が狙いの一手で、攻防に利いている。先手は桂損の代償に後手を歩切れに追い込み、また竜を作っているが、後手は横からの攻めには強いので、まずまずと見たい。
▲阿部(健)-△永瀬(17日・竜王)は先手が▲6六歩を保留して、▲4五歩△同歩▲3五歩△同歩▲4五銀と単刀直入に仕掛ける新手を放った。後手は△5五角と打ち返して激しい攻め合いになったが、感想戦では明快に先手が良くなる順は見つからなかったようだ。
(3)その他
▲行方-△先崎(2日放映・NHK)は先手が4筋、後手が6筋の位を取り合う力戦形。後手が△3五歩とさらに位を取りにきたところを▲4七金~▲3六歩△同歩▲同金と咎めにいき戦いとなった。後手はやや欲張りすぎで、先手が指せそうな展開だが、実戦的にはいい勝負。
3.相掛かり
(1)3三角型
▲金井-△島(8日・棋王)では、島が▲飯島-△島(2013年3月・順位)に続き、再び△5五角を採用。▲7七銀△4六角に▲7五歩と突いて、△7四歩を拒否したのが金井の工夫で、以下△6四角▲7六銀△5三角▲6七金右で後手は1歩得したものの、角の働きがいまひとつで不満な展開だろう。
(2)7四歩・7三銀型
▲佐々木(勇)-△竹内(11日・順位)は、4手目△7四歩からの立ち上がりだったが、結果的に先手の2八飛型に後手が中原流で対抗する形となった。
後手は先手番の中原流に比べて1手損なのを気にしてか△7六歩と垂らすチャンスで歩を垂らさずに△5四歩から中央の歩を伸ばしたが、たいした効果がなく、先手の作戦勝ちとなった。
(3)8五飛型
▲山崎-△木村(一)(27日・順位)は先手が9筋の突き合いに応じず、銀を繰り出すと、後手は△8五飛~△3三桂と先手の銀の出足を止めたあと、△7五歩▲同歩△同飛~△7三桂~△8三銀と棒銀を繰り出す展開。まさに構想力の勝負であり、私の棋力ではコメント不能。
(4)2六飛型腰掛け銀
▲北浜-△木村(一)(9日放映・NHK)は、後手から△6五銀とぶつけていく工夫を見せたが、銀交換後、▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲1二銀の手筋が決まり、先手が有利となった。
(5)その他
▲北浜-△豊島(28日放映・銀河)は横歩取り拒否の2六飛型から▲3六飛と縦歩取りを見せてからのひねり飛車。後手に飛車先を交換されているときの▲3六飛は△3三金と受けられてあまり効果が大きくなく(▲3六飛のメリットは▲7六歩△8六歩▲同歩△同飛のときに▲7五歩と突いて、飛車にヒモが突いていることが大きい)、また▲8六飛とぶつけた手に△8三銀と受けたのも後手番ならではの手で、▲7六飛△7二飛▲8六飛△8二飛の千日手を含みにしている。実戦は3三に上がらされた金を生かして後手が模様を張って十分の展開。
▲小林(健)-△脇(25日・順位)は先手は2六飛型から中住まいに組み、以下▲2九飛~▲5九飛~▲6九玉と右玉をも含みとした自由奔放な指し回し。玉や飛車の動きで手損に次ぐ手損、玉も薄く、先手としては面白くない将棋だと思うが、結果は先手勝ち。
▲塚田(泰)-△高野(26日・順位)は先手が3七桂型で▲1五歩△同歩▲4五桂と足早に攻めていった。これは後手が8四飛型なら有力とされている攻め筋だが、8二飛型ではやはりやや無理だったようで、後手が的確な反撃を見せた。
4.先手中飛車
(1)5四歩型
▲佐々木(慎)-△真田(25日・順位)は6四銀型。先手は▲7五銀とぶつけずに▲久保-△羽生(2012年11月・日本シリーズ決勝)で現れた▲2六歩の1手待機を見せた。以下△7四歩(▲久保-△羽生は△2二玉だったため、▲7五銀とぶつけられた)▲8九飛△7三桂で左辺の銀桂が同じ形となり、こう着状態に陥った。実戦はその後、先手は銀冠、後手は金美濃に組み、千日手模様となったが、後手が△1二香と穴熊を目指した瞬間に▲5五歩からうまく先手が打開をした。後手はどの形で先手の攻めを迎え撃つのかが課題となりそう。
▲上田-△吉田(28日・棋聖)も6四銀型。▲7五銀△同歩▲同歩△6四角に▲6六歩△2二玉▲3九角とした。以下、△7五角▲5五歩△同歩▲同飛△6四角(△7四歩とヒモをつけておく手も有力)▲8五飛とぶつけたが、この飛車を△8四歩から銀で殺されてしまって先手が不利となった。修正案としては▲8五飛でじっと▲5九飛と引いておいてどうか。
(2)5三歩型
▲上田-△佐藤(慎)(3日・加古川青流)は、後手が位を取らせて7三銀型の急戦。先手番の3七銀型急戦に比べて、1手遅れているが、△8五歩▲7七角を決めていないのが一応後手の主張のひとつで、▲6八銀と上がりづらくさせている(▲6八銀の瞬間に成立するかは微妙だが△5四歩がある)。実戦は先手は▲7八金と早めに上がり、慎重な態度を見せたが、結果的に実戦では左金を遊び駒にされてしまった。
(3)引き角戦法
▲高崎-△浦野(25日・順位)は、▲5五歩△同歩▲同角に△5二歩と低く受けた。のちに△6三金~△5四歩のように形を乱されることになるのならば、あらかじめ歩を打った方が得だという意味だろうが、後手の主張が少ないため、あまり自信がないと思う。ただ、定跡を外して力勝負に持ち込むというのが一番の主張といえるかもしれない。
5.先手向かい飛車
▲高崎-△行方(27日放映・銀河)は升田流向かい飛車に対し、後手は持久戦模様に進め、▲5七銀の瞬間△7七角成▲同桂と後手から角を交換して△3二銀と左美濃に組んだ。どちらから角を交換するか、あるいは角道を止めるかといった問題は非常に難しい。
▲高崎-△吉田(28日・棋聖)は升田流向かい飛車を目指す▲8八飛に対して、△6二銀(△3四歩▲6八銀△4二玉が多いところ)▲6八銀△3四歩▲4八玉△4二玉と大胆な指し回し。この△6二銀~△4二玉が成立すれば、▲2二角成~▲5三角の筋がなくなるので、先手の変化を減らすことができる。よって、先手は△4二玉を咎めに▲8六歩と突いて、以下△7七角成▲同銀△8六歩▲同銀△6四歩▲8五銀△7二金▲8四歩(▲8四銀は△8三歩が気になったか)と進んだ局面をどう見るか。