2手目△8四歩の意味 | 2手目△8四歩の世界

2手目△8四歩の世界

将棋倶楽部24で三段の居飛車党が2手目△8四歩から始まる定跡の歴史および現状について簡単にまとめます。観戦時にガイドとして使っていただければ幸いです。記事中では棋士の敬称は省略します。

 まず、具体的な定跡手順につき検討する前に、2手目△8四歩にはどのような意味があるか簡単に考えてみます。2手目△8四歩の思想を理解することで、この手の利点と欠点が浮かび上がってきます。

 結論からいえば、1.先手番が居飛車党であったときに歩損も手損もしない、歩損もしないこと、2.乱戦になるリスクが少ないこと、の2つが主な理由と考えています。


1.先手番が居飛車党であったときに歩損も手損もしない

 2手目△3四歩からの相居飛車戦には横歩取りと一手損角換わりがあります。前者は1歩損、後者は1手損することとなります。

 それに比べて2手目△8四歩からの相居飛車戦である矢倉、(純正)角換わり、相掛かりの3つの戦法は手損も歩損もしない戦法といえます。

 では、2手目△3四歩が△8四歩より劣っているのかといえば、当然ですが、そうではありません。

 横歩取りの主張は、歩損の代わりに先手の飛車が2六の地点に戻るまで陣形を整備し攻勢を取ること、また歩を取らせることにより2筋、3筋に歩が立つようになり攻め筋が広がっていることにあります。

 そして一手損角換わりの主張は、手損をすることで△8五歩を突かないで済み、持久戦になった場合の桂の活用の点で大きく得をしていることとなります。

 2手目△8四歩の欠点は横歩取りや一手損角換わりの利点と裏返しということになります。つまり、先手番の方が手得および形を決めていない点を生かして先行しやすく、後手は受け身になりやすいといえ、これが攻めている方が勝ちやすい、形をなるべく決めたくないという現代将棋の思想からすれば2手目△8四歩が選択しづらくなる大きな要因となっていると考えられます。


2.乱戦になるリスクが少ない

 2手目△8四歩は形を決める手であり、居飛車を宣言した手(もちろん陽動振り飛車はありますが)となります。もっとも、逆に先手に形を決めさせる意味もあり、先手番は次に△8五歩と突かれたときに銀で受ける(矢倉)か、角で受ける(角換わり、振り飛車)か、それとも飛車先を受けない(相掛かり)のどれかを選択しなければなりません。つまり、3手目を限定し、それだけ後手にとってはリスクが減っているともいえます。

 さらに▲7六歩△3四歩の出だしは角が早くもぶつかっており、それだけ先手番、後手番とも駒組みに注意が必要となります。極端な例ではありますが、▲7六歩△3四歩に▲6八銀と指すことはできないのです。

 以上のように2手目△8四歩は後手のリスクを負わない指し方ですが、リスクが増えるほどリターンが大きくなるのは将棋に限った話ではありません。序盤に大きく不利になるリスクを負わない代わりに有利になる可能性が少ないのが2手目△8四歩の欠点といえます。


3.当サイトで扱う戦型について

 相居飛車では矢倉、純正角換わり、相掛かり。居飛車振り飛車の対抗形では先手中飛車、先手向かい飛車を中心に扱います。

 ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3四歩の立ち上がりは横歩取りと合流し、矢倉の後手番>横歩取りの後手番>純正角換わりの後手番という方(あるいは石田流を相手にするより先手中飛車を相手にしたい方)はこの順の選択も十分ありえますが、2手目△8四歩の利点を歩損も手損もしないという点に求めるならば、純正角換わりを選択する方が自然と考えるためです。

 我々、アマチュアの大多数にとって序中盤で多少のリードを奪っても意味がないという考えも、もちろん一理あると思いますが、定跡手順から手筋や思想を学ぶことは無意味ではないとは思いますし、観戦時にプロがどこで工夫をするのか楽しむことができるという利点もあると考えています。