エノク書
Amazonからエノク書の日本語訳を発行しました。https://www.amazon.co.jp/dp/B0HHH8KYR7/ref=sr_1_10?crid=76ML85E8A83P&dib=eyJ2IjoiMSJ9.Bb_vn7OUVSY165R__FSn4fWqio1hcOU4YwnKWGzHB2WT4qN_NF0lAgXtYqp6CosHAlnZfO_gmr9lnIUraSLYiltcuO9HY8n-yLvwUn__DJDZ8qA8TID8-6flBbbom7MiDDMa3v3dluyw-f1cUHtb9QA2lryaA74DAymd_0IrKO19JCYOsVQzNsrcrJKfjEKAxYg0WEaQC4dMojI_R_6jQfdKahwfqeiLHLrD-zWH_uUozvD8Od9mdxjbP05ycdVGyzV1wjQ1ioch8hI5rMt-ixwoVACf-drXOOigj3DGXYw.mv5HaAIa5hMhh535lf3WH64VrgNO5CYPHAFgHnjnwEQ&dib_tag=se&keywords=%E3%82%A8%E3%83%8E%E3%82%AF%E6%9B%B8&qid=1790766910&sprefix=%2Caps%2C302&sr=8-1以下、本書の「まえがき」です。キリスト教と一口に言っても、カトリックもあればプロテスタントもあり、正教会もある。その他にもオリエント正教会に属するコプト正教会やエチオピア正教会もある。 それぞれがその正統性を主張する中で、「いったいどの教派が最も正統なのだろうか」という疑問を抱くのは至極当然のことと言える。 あるいは、「そもそも初期のキリスト教会は、現在のどの教派とも少しずつ違っていたのではないか」と考えるのも自然なことである。キリストの死と復活からすでに2000年が過ぎ、キリスト教が国教化されてからも1600年以上が経過しているからだ。キリスト教会が正典の範囲を定め、それが4世紀頃に確定していく以前、正典の境界線は今よりずっと曖昧であった。現在でも教派ごとに収録書物に幅があり、旧約聖書に至っては、プロテスタントの39巻(新約と合わせて66巻)から、最も多くの書物を含むエチオピア正教会の54巻(新約と合わせて81巻)まで存在する。そのエチオピア正教会において正典として扱われているのが、今回翻訳した『(第一)エノク書』である。キリストが十字架にかかって死に、復活した紀元1世紀後半、教会が誕生したばかりの時期には、正典の範囲はまだ完全には固まっていなかった。当時、教会ではヘブライ語からギリシア語に翻訳された「七十人訳聖書」が主に用いられていた(これは後にプロテスタントが旧約聖書の底本とするマソラ本文の母体となったテキストよりも広く流通していた)。初期のキリスト教徒たちは、この七十人訳聖書とともに『エノク書』などの文書も熱心に読み、そこに記された思想がキリスト教の教えと親和性を持っていたため、ユダヤ教に対する弁証にもよく用いたとされている。その後、ユダヤ教側ではヘブライ語で書かれた伝統的な書物を中心に正典の範囲が段階的に整理されていった。その過程で、マラキ書以降の時代に成立したとされる『エノク書』や、後にカトリックで「第二正典」と呼ばれるようになる書物は、ユダヤ教の正典からは除外されることとなった。カトリックや正教会は初期教会が用いていた七十人訳の伝統を受け継いで第二正典を保持したが、後に成立したプロテスタント教会はユダヤ教の正典基準(ヘブライ語聖書の範囲)を重視し、第二正典を正典から除外したのである。しかしながら、『ユダの手紙』にエノク書が直接引用されている事実や、クムラン洞窟(一般にエッセネ派とされる共同体)から大量のアラム語版『エノク書』の断片が発見されたことからもわかるように、当時において『エノク書』が正典に匹敵する極めて高い権威を持っていたことは疑いようのない事実である。マラキ書から紀元70年の神殿破壊に至る「第二神殿期」の思想的発展は、通常の旧約聖書を読むだけでは理解しにくい部分が多い。この書の権威をどのように捉えるかは個々の信仰に委ねられるとしても、『エノク書』はこの第二神殿期時代の歴史的・思想的溝を埋めてくれる非常に貴重な文献である。特に、堕天使と人間との間に生まれた巨人(ネフィリム)、悪霊の起源、天使の階級構造、冥府(シェオル)での死者の霊魂の状態、また「人の子」という概念に関して、他の書物に類を見ない豊富な情報を含んでいる。『エノク書』の世界観を踏まえることで、新約聖書の福音書においてイエスが語った「人の子」、終末の裁き、あるいは冥府についての言葉が、より鮮明に浮かび上がってくるはずである。今回翻訳するにあたっては、リチャード・ローレンス(Richard Laurence)英訳を底本とした。ただしローレンス訳には、文法上の疑問点や主語・目的語の倒置など意味が通りにくい箇所も見られるため、適宜他の英訳や研究訳も参照している。また、直訳では理解しづらい部分については、原文の意図を損なわない範囲で意訳を施し、原文の理解を補うために括弧を用いて情報を補った。したがって本訳書は、専門的な厳密さよりも、『エノク書』の全体像を手軽に把握し、その大まかな意図を理解していただくための入門的翻訳として活用していただければ幸いである。