もう昔々、大昔になる。
教室からは海が見えた。
象の鳴き声も聞こえた。
王子動物園に隣接していたから、
今はもう失くなったのだけれど、
その頃は、まだ境界もいい加減で、
動物園の北側は、なだらかな土手になっていて、
その土手からは、キリンやカバが見えた。
キリンの長い首の向こうに、
朝焼けの薔薇色の海や、
曇った日の鉛色の海が見えた。
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・ブラインド越しに見ている街の空 赤い屋根から濡れはじめてい
・光る海、海見る丘に吹いた風 その気軽さが好きだったのに
・「問題は数学ですね。」今回は私は母として聞いている
・放心をしているような午后の空、春のプールに揺れている影
・教室の窓から遠く眺めていた 鉛色したある日の海を
・青谷を降りれば海星女子学院、聖母子像も遥かなる街
・春早き神戸の街の花吹雪今年の桜見ずに終りぬ
・ 昨日来て今日帰りゆくような旅 親しみ薄き街になりゆく
・この駅は久坂葉子の死んだ駅、阪急六甲通過している
・もう一度風に逢うため私も一つの風となるための旅
・私は急ぎ始めているらしい生き急ぐというほどではないが
・ 老残を見せたくはない見たくない、風を誘って散る花がある
・距離感が私を誘う 水流は風を含むと中国の詩に
・この街にカラスが飛んでくるわけは死臭が漂いはじめたからさ
・蜘蛛の巣の繊細な糸かけられてついに息やむまでの宙吊り
・物置に蛇のぬけがらいたちの巣迷宮の入口というわけではないが
・燃える街、暖炉に落ちた焼夷弾 母の記憶の中のその夏
・ふりむけばいつでもそこに街角に、海があったが夢かもしれない
旧作より(「短歌人」)