東京フクロウ34 | 小説のブログ

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柏原玖実といいます

「新しい車買うから春になったらお花見に行こうって。ほら、いつか行った大きな滑り台のある所」

「ああ、あそこはいいな、桜が綺麗で。そうだ、そうしよう」

「うん。今日も鳥が来たよ」
「ベランダに?」
「うん。…鳥はいいなあ、あんな風に飛べたら…」
 翔は少し鼻をかいた。

「今日はここで一緒に寝てもいいか」

「うん、嬉しい、ありがとう」

ありがとう。

その声が翔の胸に響いた。

溢れ出る何かを堪えて目を閉じる。

「おやすみ、翔、おやすみなさい・・・」

ミギコが優しく微笑んだ。

 

 真夜中過ぎ、ミギコは横に寝ている翔にそっと声をかけた。

「起きてる?」

「起きてるよ」

翔は微笑んだ。静かに唸る加湿器の音、ミギコにつながれてるモニターの音。この二つの音が静かな部屋に響いている。

「仕事休んでるの?」

「寒いから」

二人は苦笑した。

だけどミギコにはわかっていた。

翔が仕事を休んでるのは寒いからではない。ずっと自分の側にいてくれるのは寒いからではない。だけどそれを言えないまま。

天窓の星。

「冬の星って綺麗だな」

「ねえ、プラネタリウムに行ったの覚えてる?翔は途中で寝てたけど」

翔は苦笑した。

「あの時ね、凄い幸せだったんだ。同じ施設のきょうだいから恋人になれた瞬間で。初めて手をつないで、」

ミギコは咳き込んだ。