「新しい車買うから春になったらお花見に行こうって。ほら、いつか行った大きな滑り台のある所」
「ああ、あそこはいいな、桜が綺麗で。そうだ、そうしよう」
「うん。今日も鳥が来たよ」
「ベランダに?」
「うん。…鳥はいいなあ、あんな風に飛べたら…」
翔は少し鼻をかいた。
「今日はここで一緒に寝てもいいか」
「うん、嬉しい、ありがとう」
ありがとう。
その声が翔の胸に響いた。
溢れ出る何かを堪えて目を閉じる。
「おやすみ、翔、おやすみなさい・・・」
ミギコが優しく微笑んだ。
真夜中過ぎ、ミギコは横に寝ている翔にそっと声をかけた。
「起きてる?」
「起きてるよ」
翔は微笑んだ。静かに唸る加湿器の音、ミギコにつながれてるモニターの音。この二つの音が静かな部屋に響いている。
「仕事休んでるの?」
「寒いから」
二人は苦笑した。
だけどミギコにはわかっていた。
翔が仕事を休んでるのは寒いからではない。ずっと自分の側にいてくれるのは寒いからではない。だけどそれを言えないまま。
天窓の星。
「冬の星って綺麗だな」
「ねえ、プラネタリウムに行ったの覚えてる?翔は途中で寝てたけど」
翔は苦笑した。
「あの時ね、凄い幸せだったんだ。同じ施設のきょうだいから恋人になれた瞬間で。初めて手をつないで、」
ミギコは咳き込んだ。