東京フクロウ29 | 小説のブログ

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柏原玖実といいます

「はい」
「私がどうしてあの二人に目をかけてやっているかわかるかね」
 高藤牧師は首を横に振った。
「私はね、あの施設を出たんだよ」
「そうでしたか」
「翔は知っているのかどうか知らないが、あいつの名前はわしの名前を一字取ってあそこの園長が付けたんだ。口煩いババァだったが、私が医者になった時はわんわん泣いてたよ。泣く時も煩いんだ、これがまた。あそこの園長、まだ元気かね」
「ええ、毎週礼拝にはいらっしゃいますよ。礼拝が終わった後、近所の方と二時間はおしゃべりされてます」
 岩沢はそれを聞いて苦笑した。岩沢はお茶を飲み干した。
「牧師さん」
 高藤牧師は顔を上げた。
「わし等のしとる事は…」
 高藤牧師は頷いた。岩沢はそこで言葉を止めた。

これ以上は…今はもうこれ以上は…

 

 ある日翔は街角に立っていた
「あの、」
振り向くとそこにこの間の女が立っていた。
「エミさんから聞いて・・・」

少し戸惑いの震えた声。
翔は立ち上がって微笑んだ。
「傷は大丈夫なの」
「はい。でもまだ…」
鼻は少し曲がったまま、目立たないテープで止めてある。
「これ、ヒロムさんに、この間の救急の病院のお金…」
「わざわざ探して返しに来てくれたのか」
「はい」
「ヒロムは…今、旅行に出てて…、でも君はきちんとした女の子だね。君、出世する」
二人は笑い合った。